空の彼方の虹
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キラがパソコンをいじっている。いったい何をしているのだろうか、と思いながらカガリは近づいていった。
「キラ? 何を作っているんだ」
そのまま軽い気持ちで問いかける。
「ギナ様の宿題」
しかし、帰ってきたのは無視できない内容だった。
「ギナ様の宿題って……何だ?」
まずいものではないだろうな、と言外に付け加える。
「まさかと思いますけど、ウィルスですか?」
即座にレイも問いかけた。
「……違うと思うけど……」
キラはそう言って首をかしげる。
「それなら、何なんだ?」
言葉とともにキラの目の前にココアが置かれた。
「カナード兄さん」
本当に、キラに関してはそつがないと思う。などと考えているカガリの前にも当然、ココアが置かれた。もちろん、レイの分もある。
「状況によってはミナ様に報告しないといけないからな」
だから、早々に白状しろ。彼はそう付け加えた。
「……システムの管理装置、かな?」
自分もよくわからない、とキラは言い返して来る。
「何のための管理装置なのか、ギナ様は教えてくれなかったから」
でも、とキラは続ける。
「一番近いのは、孵卵器のシステムかな?」
アメノミハシラにそのようなものがあっただろうか、と首をかしげつつそう言った。
「孵卵器?」
「あるいは、動物のクローニング装置」
そう言う生き物の成長過程を監視するシステムなんだけど、と呟く。
「そうか」
思い当たるものがあったのか。カナードはあっさりとうなずく。
「ウィルスでないならいい」
この一言がすべてらしい。それはそうだろうな、とカガリでも思う。
「ウィルスも頼まれたけど、ミナ様が却下していたし」
だが、キラが次に口にした一言で脱力してしまった。
「やっぱり、ギナ様だな」
「使えるものなら何でも使うと」
カガリとレイはそう言うとため息をつく。
「ミナ様が却下したにしても、ずいぶんとあっさりとギナ様が引き下がったな」
ふっとカナードがこんなセリフを漏らす。
「前に作ったのがあるから、だって」
言われてみれば、作ったような記憶がある。キラはさらに爆弾発言をしてくれた。
「それをギナ様は……」
「持っていると思うけど?」
カナードにも渡したような気がする、とキラは付け加える。
「あれか」
確かに持っているな、とカナードはため息をつく。
「なら、危険はさほどないのか?」
彼はこう呟いた。
「それって、どんなウィルスなんだ?」
カガリは思わず好奇心のまま問いかける。
「武器の照準を合わせるとそのままOSがロックされるだけ」
ザフトも地球軍も関係ない、とキラは続けた。
「ギナ様やカナード兄さんの機体にはワクチンソフトが入っているはずだから、影響ないとは思うけど?」
セットで作って渡したから、と微笑む彼に何と言えばいいのだろうか。
「……ラウは大丈夫でしょうか」
レイが不安そうに口にする。
「ミナ様がちゃんと手配してくれただろう」
たぶん、とカナードは不安そうに付け加えた。と言うより、彼もそれしかできないのだろう。
「まぁ、だめでも全部動かなくなるんだ。死なずにすむだろう」
苦笑とともにそう言うカナードに、カガリとレイはこわばった笑みを向けることしかできなかった。