空の彼方の虹
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待機を命じられて、いったいどれだけの時間が過ぎたのだろうか。
もうかなり経ったような気もするし、まだ数分のような気もする。
「落ち着け。初陣じゃないんだしな」
ミゲルが笑いながらそう言った。
「わかっていますが……それでも、緊張しますよ」
ニコルが即座に言い返している。
「確かに。これだけ大規模な戦闘となれば、な」
ニコルの言葉にイザークもうなずいてみせた。
「まぁ、勝てばいいだけだけど」
ディアッカが笑いながらこんなセリフを漏らす。
「それができるかどうかわからないから不安なんですよ!」
「数の上では向こうの方が上だからな」
「第一、そうやって相手をなめてると、真っ先に撃墜されるのはお前、と言うことになるぞ」
三者三様に注意をされて、ディアッカは少しだけ不本意そうな表情を作っている。
「俺は、場を和ませようとだな」
「だとしても今のセリフは口にしていいものではないだろう?」
イザークが厳しい声音でそう言い返した。
「確かに。和ませたいならいっそ、お前の裸でも見せられた方がマシだったな」
いくらでも罵倒できる。ミゲルがあきれたように口にする。
「ひでぇ! 何だよ、それは」
何故、俺が脱ぐことに! とディアッカが叫ぶ。
「そうですよ。誰がそんなもの見たがるんですか?」
無条件でものを投げつけたくなります、とニコルが言い切る。
「笑うために決まっているだろう」
他に理由がいるのか? とミゲルが言葉を返した。
「……ないですね」
「確かに、ないな」
ニコルだけではなくイザークにまでそう言われて、本気でディアッカは落ち込んでいる。逆に静かでいいな、とアスランは心の中で呟いた。
「ともかく、気を引き締めていけ。死にたくなければ、な」
ミゲルは話題を変えるように言葉を綴る。
「わかっています。キラ君との約束もまだ果たしていませんから」
にっこりとかわいらしい笑みを浮かべながらニコルがこう言った。
「キラとの約束?」
それにイザークが食いつく。本音を言えば、アスランも興味津々だが。しかし、それを下手に感情に表せば、他のメンバーに何を言われるかわからない。本当に、彼らもどうしてここまで邪魔をしてくれるのだろうか。
「僕のピアノを聞いてもらう約束をしたんです。ラクス様の歌と一緒に」
ラクス経由で話が来たのだ。ニコルはそう言って笑う。その瞬間、アスランは無意識にいやそうな表情を作ってしまったらしい。
「どうしたんだ、アスラン? 変な顔をして」
逃げ出すいい口実ができたと考えたのだろうか。ディアッカがこう問いかけてくる。
「ラクスに、以前、あきれられたことを思い出しただけだ」
不本意ながら、とアスランは言い返す。
「当然だと思いますよ。ラクスさまのコンサートの時に最前列で居眠りをしていれば」
誰だってあきれたくなる。ニコルがそう言ってくる。
「そういえば、僕のコンサートの時にも同じように居眠りをしてくれましたね」
「仕方がないだろう。何故か眠くなるんだから」
ラクスの歌はとにかくよく眠れる。そう続けた。
「そもそも、音楽の何がすばらしいのか、わからないからな」
いいのか悪いのかすらもわからない。絵や写真もそうだから、自分の感性には合わないのだろう。アスランはそう開き直る。
「ラクス・クラインの歌を子守歌だと……贅沢な奴」
「って言うか、彼女の歌の良さがわからないと言う方がわからない」
「だから、子供に嫌われるんだな」
イザークとディアッカの言葉は気にならない。しかし、ミゲルのこの一言はショックだった。
ひょっとして、あのキラに嫌われたのはそれも原因なのだろうか。それともと本気で悩みたくなる。
その瞬間、出撃の命令が下ったのは、何かの嫌がらせだろうか。そう問いかけたくてもアスランには問いかける相手がいなかった。