空の彼方の虹
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「本気で、アスランの記憶をどうになしなければいけないような気がしてきたよ」
屋敷に帰ってきた瞬間、ラウはこういう。
「と言っても、今は下手なことをするわけにはいかないがね」
あれでも、パイロットとしては優秀なのだ。
そして、今は少しでも戦力を減らしたくない。
ラウのこの主張は現状を考えればもっともなものだろう。
「ならば、戦争が終わりになったときならばいいのか?」
にやりと笑いながらギナが問いかける。
「それに関しては、考えるだけにしておけ。ラウに答えられるはずがなかろう?」
即座にミナが彼を制止した。
「まぁ、適当にな」
しかし、その後に続けられたセリフはなんなのか。しかも、意味ありげなセリフ付きだ。
「そうさせてもらおう」
ギナも楽しげにうなずいている。
「いいな。そういうことなら、私も参加したい」
さらに、カガリまでがとんでもないことを言ってくれる。
「やめておけ」
カナードが額を抑えながらそう言う。
「何でですか?」
即座にカガリが彼にかみつく。
「お前ではキラをごまかせないからだ」
顔に出るからな、とカナードが続けた。
「確かに、一発でばれるの」
彼の言葉にミナもうなずいてみせる。
「キラが悲しむことはしたくないであろう?」
さらにこう付け加えられては、カガリに勝ち目はない。
「……わかりました」
渋々ながらうなずいてみせる。
「あきらめろ。今回だけは俺もおとなしくしている予定だ」
そんな彼女に向かってカナードはそう言う。
「キラを一人にしない方が良さそうだしな」
さらに彼はそう付け加えた。
「……そうですね」
そういうことならば、とカガリはようやくあきらめたようだ。
「そろそろ、お話しをさせていただいてよろしいでしょうか」
それまで黙っていたマルキオが不意に口を開く。
「あぁ、そうでしたな。この子達にお話しがおありでしたか」
事前に話を聞いていたのだろう。ミナがそう言ってうなずく。
「キラを起こした方がいいでしょうか」
カナードがそう問いかける。
「できれば、そうしていただければ、と思います。お渡ししたいものがありますので」
マルキオはうなずくとこう言った。
「渡したいもの、ですか?」
いったい何なのだろうか。カガリの顔にしっかりとそう描かれている。
「えぇ。あなた方の本当のお母様からお預かりしていたものです」
いい機会ですので、お返ししようと思ったのだ。マルキオはそう続ける。
「マルキオ様?」
どういう意味か、とカガリが問いかけた。
「おそらく、次にお目にかかれるのはしばらく先になるでしょうからね」
自分が忙しくなるだろう。だから、とマルキオは言葉を返す。
「プラント側が勝つにせよ負けるにせよ、次の戦闘でこの戦争は終わるでしょう。そうなれば、戦後処理を優先しなければなりません。私も、非力ながらお手伝いをすることにしなければいけません」
そのために自分はプラントに来たのだ、とマルキオは続ける。
「この戦争が終わるのですか?」
信じられない、とカガリが呟く。
「終わらない者など、何もありませんよ」
いかに終わらせるか。本当に難しいのはそれだ。彼の言葉に、ラウもうなずいて見せた。