空の彼方の虹
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この場で軍人はアスランだけだ。だから、ちょうどいいとばかりに、ミナは捕まえた男を彼に引き渡す。
「後日でかまわん。詳しい調書を提出してもらおうか」
しかし、彼女がそう声をかけたのはアスランではない。
「極力、ご希望に添えるようにさせていただきますよ」
そう言葉を返したのはギルバートだ。
「しかし、何故、君がここにいるのだろうね。アスラン・ザラ君?」
ミナからアスランへと視線を移動すると、彼は問いかけてくる。
「地球軍の艦隊がこちらに向かっていると報告があった、と言うことでラウはザフト本部へ向かったが?」
君にも招集命令があったのではないか。彼はさらに言葉を重ねる。
「途中で、その男を見つけましたので」
嘘ではないが本当でもないセリフをアスランは口にした。
「まぁ、そういうことにしておこう」
ギルバートは苦笑とともにそう言う。
「では、この後、自分がなすべきことはわかっているね?」
さらに彼は言葉を重ねてきた。
「はい」
悔しいが、今は優先すべきことを間違えてはいけない。ここに彼がいなければ、方法はあったのだが。心の中でそう呟く。
「そうしてくれると嬉しいね」
ギルバートはそう言う。
「ギル、いいですか?」
話が終わったと判断したのだろう。レイが口を挟んでくる。
「あぁ、そうだね。ミナ様とマルキオ様を安全な場所に避難させないといけないね。頼んでかまわないかな?」
後から追いかける、とギルバートは続けた。
「はい。うちでかまわないのでしょうか」
「とりあえずはね。大使館はまだ使えないようだし」
昨日の今日だからね、とギルバートが付け加えたのはイヤミだろうか。しかし、現実として昨日の一件が使えない要因になっている以上、うかつな反論はできない。
「では、失礼します」
おとなしく、次の機会をうかがうしかないか。そう判断すると、アスランは男を連れてその場を後にした。
「あれがアスラン・ザラか」
ミナが小さな声で呟く。
「ずいぶんと思い込みの激しい方のようですね」
それにマルキオがこんな言葉を返していた。
「ある一点に関して、だけですがね」
ため息とともにカナードは言う。
「キラに関してだけ、ですよ。いくら説明しても納得しやがらない」
さらにカガリがこう続ける。
「とりあえず、要注意と言うことだな。あれの父親もふくめて」
ギナが締めくくるように言葉を口にした。
「ともかく落ち着けるところに移動した方がよかろう。キラが限界故」
彼はさらにそう付け加える。
「あぁ、それはいけませんね。確かに、ここではいろいろと落ち着かないでしょうし。許可が出るようでしたら、移動した方がいいでしょう」
マルキオがそう言いながら微笑んで見せた。
「久々の再会が、とんでもないことになってしまいましたね」
残念です、と彼は続ける。
「確かに、そうです」
カナードもそう言ってうなずく。
「すみません、マルキオ様」
それが聞こえたのか。キラが小さな声で謝罪の言葉を口にする。
「キラ君のせいではありません。タイミングが悪かっただけですよ」
ふわりと微笑みながらマルキオは口にした。そのまま、何かを探すかのように杖をついていない方の手を持ち上げる。きっと、キラを探しているのだろう。
「こちらですよ」
そう判断をして、カナードは言葉とともにマルキオの手を取る。そして、キラの頭へと導いた。
「少し熱はあるようですね。コーディネイターとはいえ体調を崩さないわけではないのですよ」
気をつけてください、といいながら、そっとキラの髪をなでる。
「マルキオ様の言うとおりだぞ、キラ。無理はするな」
カナードもそう言った。
「ギナ様?」
そのまま、彼の体を受け取ろうと手を伸ばす。
「……姉上が連れて行くと言っておる」
「久々だからな」
どうして、この双子は同じセリフを口にするのだろうか。自分のことを棚に上げて、カナードはそんなことを考えていた。