空の彼方の虹
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後ろからあの背中を撃ったら気分がすっとするだろう。
しかし、後々のことを考えればできない。
「全く……さっさと俺たちの前から消えてくれればいいものを」
そうすれば、こんな感情を抱かなくてすむ。
この感情はキラにとってはマイナスなのだ。だから、彼は自分の気配をつかめなくなっているのかもしれない。
「一種の防衛本能なんだろうな」
自分の感情を過剰に受け止めない言おうに、と続ける。
「それも、あいつが悪いんだが」
カナードはそう付け加えると、目の前の背中をにらみつけた。
「一度であきらめればいいものを」
二度、三度と説明をされたにもかかわらず、自分達の前から姿を消さない。
いったい、何が彼にそこまでさせるのか。
「キラの存在だろうな」
三年前まで、彼はキラに依存しきっていた。本人達はそう思っていなかったようだが、少し離れた場所から見れば、それは一目瞭然だった。
もっとも、それに関しては自分もあれこれ言えない。その事実は認識している。
キラの隣にいれば心地よい。
だから、アスランもその場所を取り戻したいと思うのか。
しかし、だ。
アスランは自分が望めば、キラ以外のそれも手に入れることができる。それはカナードには望めないことだ。
それなのに、努力をしないでいつまでも過去に縛られている。そのせいでキラを苦しめている。彼を憎む理由としては十分ではないか。
ともかく、とカナードは意識を切り替える。
「今は、あの男の目的を聞き出すことが最優先だ」
それに、と自分に言い聞かせるように付け加える。
ここで下手な動きを見せれば拘束されるだろう。その結果、キラのそばにいられなくなるのでは意味がない。
だから、アスランの存在は無視するのだ。
そう考えれば考えるほど意識してしまう自分には苦笑を浮かべるしかない。
カナードが唇にかすかに自嘲の笑みを浮かべたときだ。
視線の先に黒い疾風が現れる。
ギナだろうか。真っ先に思い浮かんだのは彼の存在だ。しかし、それならば、何故、前方から現れるのだろう。
「……まさか」
反射的にそう呟く。
「ミナ様か?」
しかし、何故、彼女が……と思う。
それとも向こうでも襲撃があったのだろうか。
「その可能性は高いな」
だから、彼女は自分で何とかしようと考えたのだろう。それとも、ただの鬱憤晴らしだろうか。
「後者の可能性の方が高いな」
どうやら、テロリストも彼女の存在に気がついたらしい。いきなり方向を変えた。
「今か」
同時に、こちらに対する警戒が弱まる。
アスランの動きだけが不安だが、と思いながら、銃を取り出す。
いったん足を止めて照準を合わせる。
「先に動きを止めれば、ミナ様も殺さないよな?」
そう呟くとカナードは引き金を引く。
狙いは違うことはない。男はバランスを崩す。それでも倒れずに前に進もうとする根性は見事だ、と言うべきだろうか。
しかし、相手の隙をミナが見逃すはずはない。
軽くステップを踏むと、そのままの勢いで相手あごにけりを入れる。
「ぐっ!」
変えるがつぶれるときのような声とともに男は気を失ったようだ。
「カナード。ギナはキラ達と一緒か?」
だめ押しとばかりに男の背中を踏みつけながらミナが問いかけてくる。
「はい」
相変わらず怖い方だ。そう思いながら、カナードはうなずく。そんな彼らの間で、アスランだけが忌々しげな表情を見せていた。