空の彼方の虹
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目の前に紅い軍服を身にまとった人物が飛び出してくる。
「アスラン? 何でお前がここにいる!」
相手が誰かを確認した瞬間、カガリはこう叫んでいた。
「ブルーコスモス関係者を追いかけてきただけだ」
即座に彼はこう言い返してくる。
「……やはり、ブルーコスモスか」
予想はしていたが、とギナが呟く。
「まぁ、いい。カナード」
「わかっています」
殺しません、と付け加えるとカナードはまっすぐに駆け出していく。おそらく、彼は誰が目標なのかわかっているのだろう。
しかし、自分には見えなかった。
「そのような表情をするでない」
ギナがすぐに注意の言葉を投げかけてくる。
「お前とカナードでは立場が違う。実戦経験もな」
気づかなかったとしても仕方がない、と彼は言外に続けた。
「いずれわかるようになる」
それまではおとなしくして入れ。そう言われても納得するのは難しい。
今でなければ意味はないのではないか。
「ギナ様、自分で歩けます」
そのときだ。キラがこう言う。
「よいから抱えられておれ。でなければ、私があれを殺しかねん」
キラを抱えている間は、そのようなことを支度でもできない。そう続ける。
「聞かなければいけないことがあるんだ。言われた方にした方がいい」
カガリも苦笑とともにそう言う。
「お前はギナ様とカナードさんのストッパーなんだから」
さらにこう続けた。
「そういうことだ」
重々しい声音でギナは同意をする。
しかし、本当は違う。本人だけが気づいていないのだろうが、キラの手足は微妙に震えている。これではいくらコーディネイターでも十分な実力を出せるはずがない。
「もっとも、姉上にあったらお前を押しつけるだろうがな」
彼女も絶対に暴走しているに決まっている。ギナはそう言いきった。
「ミナ様が暴走したら、ギナ様には止められるのですか?」
不安そうな表情でキラが問いかけている。
「止められんから、お前を目の前におくのよ」
赤ん坊の頃から面倒を見ているキラの顔を見れば、さすがのミナも我に返るだろう。ギナはそう言う。
「私がそうだからな」
それが理由になると思っているあたりさすがだと言える。
自分とキラも双子なのに、そこまでは言えない。そうカガリは心の中で呟いていた。むしろ、カナードの方が近いと思う。
「だからそのときはカガリと一緒に人身御供になるがいい」
「私もですか?」
キラだけじゃなく? とカガリは聞き返してしまった。
「当然だろう? 赤子の頃から面倒を見ているのはお前も同じことよ」
キラと二人でミナの前に置いておけば相乗効果よな、と彼は笑う。
「そうですか」
本当に笑うしかない。カガリはため息をつきながらそう考える。
「と言うわけで、行くぞ」
下手をしたら、アスランまで被害に遭いかねない。そうなれば、いろいろと面倒なことになる。
個人的には嬉しいが、と付け加えたのはギナの本音だろう。
「……ギナ様……それでは、悪役です」
キラが小声で指摘する。
「別にかまわぬであろう?」
それに対するギナの返事がこれだ。
「政治はきれい事だけではすまぬからの。一人ぐらいは悪役が必要というだけよ」
誰かがやらなければいけないのであれば、自分がする。そういうことだ。そう言って笑う彼はすごいと思う。
「無駄話はここまでだ。移動するぞ」
表情を引き締めると、ギナが言葉を口にする。
「はい」
カガリはそう言うと、先に立って歩き始めた。