空の彼方の虹
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目の前の男は、いったい、何をしているのか。
アスランは心の中でそう呟くと、眉根を寄せる。
そう思った次の瞬間だ。
男は手にしていたケースを前へと蹴り飛ばす。
「貴様!」
反射的にアスランはこう叫んだ。しかし、その声をかき消すかのように爆音が周囲に響く。
「くっ!」
両腕をクロスさせて顔を覆う。
全身に細かな破片が飛んでくる。しかし、それはアスランを傷つけるものではなかった。
「あいつ、テロリストか?」
おそらく、ブルーコスモス関係者ではないか。
「この時間、と言うことは……狙いはサハクの双子か!」
それとも、カガリなのか。
どちらにしろ、放っておく訳にはいかない。
「仕方がないな」
追いかけるか、と口の中だけで呟く。それに、と続ける。これはいい口実になってくれるはずだ。
「呼び出しを無視している、な」
いくらアスランでも、軍からの呼び出しを無視したらまずい。だが、テロリストを追跡していると言えばごまかせるはずだ。
「ミゲルぐらいには連絡を入れておくか」
仕方がない。そう続ける。
その間も意識は男へと向けられていた。
ルートがしっかりと頭に入っているのか。少しも迷うことなく進んでいく。
「……それなりの地位の人間に、情報を漏らせる存在がいるな」
そうでなければ、これだけ入り組んでいる作業用通路をまっすぐに進んでいけないはず。
「蒼き清浄なる世界のために!」
そう考えていた瞬間、男はこう叫ぶ。そして、抱えていた包みの中から銃を取り出す。
「貴様!」
条件反射のように、アスランは男へと飛びかかっていた。
すぐそばで爆発音が聞こえた。
「……ギル……」
彼をかばうように身構えながら、レイが声をかける。
「私は大丈夫だ。それよりも、マルキオ様を頼むよ、レイ」
即座にギルバートがこう言ってきた。
「ですが……」
自分が優先しなければいけないのは、キラとギルバートなのに。それなのに、どうして? とレイは思う。
「私なら大丈夫だ。すぐに空港の警備陣も駆けつけてくるだろうしね」
何よりも、とギルバートは視線を移動した。
「ミナ様を止めなければなるまい」
レイがそちらに回るか? と言われて、反射的に首を横に振ってしまう。
「そういうことだよ」
苦笑とともにギルバートは言葉と続ける。
「別に、私は一人でも大丈夫だぞ」
低い笑いとともに皆の声が割って入ってきた。
「文官のお前がいても足手まといなだけだ」
やはり彼女はギナの姉だ。改めてそう認識する。
「それに、ギナがキラ達をつれてこちらに向かっているはずだからな。彼らがつく前に片付けておかねばなるまい」
彼女はそう言いながらマントを外す。
「マルキオ様とそれを頼む」
「ですが」
「相手がMSなら問題だがな。生身なら、何とかなる」
その言葉とともにミナはギルバートにマントを押しつける。そして、そのまま駆け出していく。
「ギル」
どうするか、とレイは言外に問いかける。
「おとなしく見守る以外、ないだろうね」
やはりサハクだったか。そう呟く彼にレイも同意をするしかできなかった。