空の彼方の虹
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反射的に小さな体を引き寄せる。そして、己の体でかばった。
「ギナ様!」
意味がわからないのだろう。キラが問いかけてくる。しかし、その声をかき消すように爆音が周囲に響き渡った。
「皆、無事だな?」
爆風が行き過ぎた後でギナは確認するように問いかける。
「とりあえずは」
カナードがすぐに言葉を返してきた。
「耳がおかしいけどな」
さらにカガリの声も後を追いかけてくる。
「すぐに治る。それまではとりあえず黙ってくっついてこい」
確かに、それが一番いいだろう。
「しかし、何が起きた?」
カナードが呟きながら、周囲を見回している。これに関しては彼に任せておくのがいいだろう。
自分は、とギナは腕の中の存在へと視線を落とす。
「大丈夫だな、キラ」
こう問いかければ、キラは小さくうなずいてみせる。だが、その顔色は悪い。
「当面の危険は?」
キラの体を片手で抱き上げながらカナードに問いかける。
「大丈夫だと思いますが」
しかし、気配を消しているだけかもしれない。カナードは言外に付け加える。
「注意するしかあるまい」
それよりも、とギナは周囲を見回しながら言葉を綴った。
「皆と合流することを優先すべきだろうな」
キラのためにも、と視線だけで付け加える。
「そうですね」
カナードもそう言ってうなずく。
「カガリ、先にゆけ。カナードは後ろだ」
本当は自分がしんがりを努めてカナードに先行させる方がいい。だが、カガリではキラを抱えて歩けない以上、仕方がない。前方であれば、自分もフォローができるだろうし、と思う。
「こうなるとわかっていれば、レイも同行させるのだったな」
ギルバートともに行かせたのは失敗だったかもしれない。ギナは思わずそう呟く。
「まぁ、今更言っても仕方があるまい」
それよりは、早々に安全を確保するべきだろう。
「あちらに行けば、レイもいますよ」
カガリが明るい口調で言葉を綴る。
「きっとミナ様もいるでしょうし、キラを甘やかしたいと思っていますよ」
膝枕とか、と彼女は笑った。
「カガリのそれよりも柔らかいであろうしな」
ギナはギナでこんなセリフを口にする。
「だから、そんな表情をするでないわ」
これはカナードへのセリフだ。
「向こうに戻ったら、好きなだけキラをかまい倒すがよい」
今は他にすることがあるだろう。そう続ける。
「……わかっています」
だが、カナードの視線はギナの腕の中にいるキラから離れない。
「私の方が大きいからな。キラを抱いていてもそれなりに動ける」
カナードであれば両腕で抱きしめなければ無理かもしれないが、とギナは笑った。
「ラウやムウも同様だな。悔しければ、もっと大きくなれ」
「……わかっています」
カナードは必死に感情を押し殺しながら言葉を返してくる。
「兄さん……」
そんな彼に、キラがそっと呼びかけた。こんな時でも自分のことは二の次にするのか、とあきれたくなる。
「大丈夫だ。いずれ追い越せばいいだけのことだろう?」
絶対にそうしてみせる、とカナードは笑う。それが強がりだとしても、キラを安心させるには十分だ。
「そう簡単に追い越させはせぬがな」
ギナはそう言って笑みを浮かべる。
「さて行くか」
そして、周囲の者達を促すと歩き出した。