空の彼方の虹
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ロンド・ミナ・サハクがプラントに来るという情報を耳に挟んだのは偶然だった。
しかし、だ。
それは幸運だったと思う。
「間違いなく、キラも来るだろう」
確かに、カガリ達からあれこれ話は聞いた。だが、本人に確かめたわけではないのだ。
だから、と言うこの考えがわがままだとわかっている。
それでも確かめないといけない。
「何故、俺があんなに嫌われているのか」
彼らの話が話が本当であれば、自分はここにいる《キラ》とあったことはないはずなのだ。
だが、とすぐに思い直す。カガリ達が余計な事を吹き込んでくれた可能性がある。それが彼に余計な恐怖心を抱かせたのではないか。
「全く、余計な事を」
こうやって、自分を孤立させるつもりなのか、彼らは。
確かに、カガリとは仲が悪かったが、そこまでされなければいけない覚えはない。
「キラが生きていてくれたら……」
きっと、彼女の行動をいさめてくれたのではないか。
それとも、同じだったのだろうか。
ふっとそんなことも考えてしまう。
自分では気づかないところで彼らを傷つけてしまっていた可能性はある。
そうでなかったとしても、パトリックが彼らを傷つけていたのではないか。
彼の息子だという理由で自分が恨まれたとしても仕方がないかもしれない。
それでも、とアスランは思う。
「せめて、彼の言葉で聞きたい」
自分のことをどう思っているのを、と付け加える。
だから、何としてもキラと会わなければいけない。そう呟くとアスランは歩き出した。
周囲を確認するように見回す。
どうやら満足したのか。男はそのまま奥へと続いていく。その通路には『関係者以外立ち入り禁止』の文字が記されていた。
しかし、男は誰の意識にも残ることなく、その奥へと進んでいく。それは、ごく普通の光景だからだろう。
その重要性が認識されたのは、事件が起きてからだった。
ようやく、肉眼でもプラントをとらえることができるようになった。
「さて……愚弟はおとなしくしているかな?」
ミナは小声でそう呟く。
「規制はかかっていないようだから、大丈夫か」
言葉とともに唇の端を持ち上げた。
「あれらも苦労していよう」
ギナを止めるという意味で、と続ける。
「まぁ、キラがいたからな」
彼の前でギナが自分の感情を爆発させるはずがない。それがわかっていたからこそ、一人で行かれたのだ。
それに、と彼女は続けた。
今はカガリとカナードもあちらに合流している。ギナの性格であれば、なおさらみっともない姿を見せたくないと考えるはず。
「我が弟ながら、見栄っ張りよの」
小さな笑いとともにさらに言葉を続けた。
「もっとも、プラントが必要以上にあれを刺激しなければのことだがな」
許容範囲が広がっているとはいえ、無限ではない。だから、限界が来ればたがが外れる可能性は否定できない。
それでも、キラがいる限り無茶はしないはずだ。
「あのときの光景を、あれも覚えているはずだからな」
キラを見つけ出したときの衝撃は、何があろうとも忘れることはできないだろう。
そして、キラにしてみればあの日はつい先日のことなのだ。
「無理にでも連れて帰るべきなのだろうが」
今すぐは無理ではないか。
「まぁ、ギナの憂さ晴らしは許可してやるべきだろうな」
後始末は厄介かもしれないが、と彼女は苦笑を浮かべた。