空の彼方の虹
121
一眠りしてもキラの体調は治らなかった。多少マシなった、と言う程度なのだ。
そのせいだろうか。彼の甘え方が半端ない。
「肩により掛かっていろ」
もっとも、彼を甘やかすことに関しては何も問題はない。むしろ、もっと甘えてくれた方が嬉しいくらいだ。
「でも……」
「ついたら、起こしてやる。だから、安心しろ」
起きていようとするキラを、この一言であきらめさせる。
「今のままだと、ミナ様を心配させるだけだぞ」
さらに言葉を重ねれば、キラは小さくうなずいて見せた。
「……ごめんなさい」
蚊の鳴くような声で彼はさらに言葉を重ねる。
「それこそ、気にするな。お前に面倒をかけられるのは嬉しいからな」
無条件で構える人間がいるという事実。それがあるうちは、自分は暴走することはない。だから、と心の中だけで付け加えた。
「兄さん?」
「お前を甘やかすのは、俺の権利だからな」
言葉とともにキラの頭に手を置く。そのまま自分の方へを引き寄せた。
「だから、遠慮なく甘えろ」
そう言って軽く彼の頭を叩く。
「……うん」
言葉とともにキラは素直に目を閉じる。やはり、かなり無理をしていたのか。すぐに眠りに落ちた。しかし、それが浅いものだとわかってしまう。
「やっぱり、強引にでも連れ帰るか」
オーブに、とカナードは小声で呟く。
ラウ達が気を遣ってくれているのはわかっている。しかし、ここ数日の様子を見ただけでも、キラの心が安まる時間が少ないのは十分に理解できた。
このままでは、キラの体に重大な問題が出かねない。
普通に成長していれば、そのようなことはなかっただろう。
しかし、だ。
キラは成長期に長期間のコールドスリープを強いられている。しかも、目覚めてから、まだ一年と経っていない。これから、どのような不具合が出てくるかわからないのだ。
「そのあたりは相談だな」
本音を言えば、アメノミハシラに閉じ込めておきたい。
しかし、それではキラの心が自分の中に閉じこもってしまう。
人の心は本当に難しい。
だからこそ、大切にしなければいけないのか。
「そういえば、セイランも何とかしないとな」
あちらの方が厄介かもしれない。だが、ムウ達が動いてくれているなら、しっぽぐらいつかめているのではないか。
「いい加減、みんなでのんびりとしたいな」
そのためにもさっさと戦争を終わらせなければいけないのではないか。
しかし、そのための権限は自分にはない。
もっとも、ミナやウズミの苦労を見ていれば自分にできるとは思えない。何よりも、首長になってしまえばキラだけを優先することはできなくなる。
だから、国政という点ではカガリにがんばってもらうしかないのではないか。
自分はそんな彼女を裏から支えればいい。
「後は、あいつか」
未だに見つかったという報告がないと言うことは、まだキラのことをあきらめていない証拠だろう。
「てっきり、あちらに顔を出すかと思ったが、来なかったな」
かといって、大使館の方に出没をしたわけではないらしい。
「緊急招集とやらでザフトに行っていてくれればいいが……」
そうでないとすれば、宇宙港に現れる可能性がある。
「本当に厄介な奴だ」
まだあきらめてくれないとは、とため息をつく。
「とりあえず、キラを一人にしないことか」
それに関しては問題はないだろう。後はさっさとミナと合流してしまうことではないか。
「本当に、プラントは俺たちにとって鬼門だな」
ため息とともにカナードは言葉を吐き出す。それでも、自分達が自分達である以上、縁を切るわけにはいかないのだ。
「重荷というわけではないがな」
それがあったからこそ、自分達はここにいる。そういうことだ。カナードはそう呟いていた。