空の彼方の虹
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「お邪魔していますわ、カガリ」
本当に、どうやってここに入り込んだのか。微笑んでいる友人の姿にカガリはそう考える。
もっとも、答えは一つしかないだろう。
「……ギナ様……」
何を考えているのか、と問いかけたくなる。もっとも、彼はもちろん、目の前の相手も素直に答えを教えてはくれないだろう。
「勝手に人の客を通さないでくださいよ」
でなければ、事前に教えてくれ。こう言いたくなったとしても、誰もカガリを責めないのではないか。
「カガリ、お加減でも悪いのですか?」
自分のそんな思いを気づいているはずなのに、ラクスは平然と問いかけてくる。
本当に自分は彼女と友だちでいていいのか。ふっとそんな考えが脳裏をよぎった。
しかし、だ。ラクスが何の考えもなくこんな行動に出るとは思いたくない。
「……何かあったのか?」
とりあえず、それを確認しよう。そう思って問いかけた。
「アスランが行方不明なのですわ」
「はぁ?」
何か、さらりととてつもなく怖いセリフを聞かされたような気がする。
「アスランが、いつから?」
「今朝から、ですわ。仕事に行くと言われたので、ザフト本部の敷地内に入ったところで、こちらの監視は切りましたの。代わりに、ニコル様に声をかけたのですが……」
「いなかったのか」
カガリの言葉にラクスはうなずいてみせる。
「彼が行きそうな場所で確率が高いところは二カ所だけですから」
キラがいつ可能性が高い場所だ、とラクスは言外に告げる。
「一応、ロンド・ギナ様には事前に連絡しましたわ」
その上で、自分がここに来たのだ。ラクスはそう言った。
「だから、カナードさんが出かけたのか」
自分は待機で、とカガリは呟く。
「おそらくそうでしょうね」
こちらには、ギナとカガリ、そしてラクスがいればいくらでも対処できる。あちらも、ラウがフリーであれば何も心配はいらないだろう。しかし、現状では無理だ。
かといって、ギナがあちらに戻るわけにもいかない。だから、カナードが言ったのだというのもわかった。
「……私がもっとしっかりしていれば、ここを任せてもらえたのだろうが」
そうすれば、カナードだけではなくギナも自由に動けたのではないか。そう考えずにはいられない。
「仕方がありませんわ。年齢だけは自力でどうこうできるものではありませんもの」
違いますか? とカガリが問いかけてくる。
「確かにな。無駄に年を重ねている奴もいるが」
いつまで経っても変わらない、と呟きながらカガリが脳裏に描いたのは、もちろん、今回の原因になった相手の存在だ。
「アスランも、本当にお馬鹿さんですわ」
あきらめると言うことも重要なのに、とラクスもため息をつきつつうなずく。
「屋敷に現れないとするならば、後はミナ様の到着の時が要注意だな」
話題を変えるかのようにカガリはそう言う。
「そのときは、キラも顔を出す」
もっとも、と彼女は続けた。
「しかし、ギナ様をはじめとして全員が顔をそろえるからな。あいつが一人でどうこうできる訳がないんだが」
そのくらいは理解をしているはずだ。そう続ける。
「でも、アスランですわよ?」
無理ではないか、とラクスは言い切った。
「そうなんだよな。全く、気が長いというか執念深いというか……」
どちらにしろ、困ったことだと言うのは変わらないか。カガリはそう言う。
「ここだと他のみんなの邪魔になるな。私が使っている部屋に移動しよう」
その方がゆっくりと話しができる。特に、悪巧みの打ち合わせには最適ではないか。
「そうさせていただきますわ」
ラクスは素直に同意をしてくれる。それがいいのか、悪いのか。カガリにはすぐには判断がつかなかった。