空の彼方の虹
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「兄さん?」
レイとラウに挟まれるように姿を見せた彼に、キラは目を丸くしている。
「ギナ様の許可はもらったぞ」
カナードはそう口にした。
「お前の部屋の位置も聞いていたから、窓を開けてもらおうと思ったのだがな」
ばれないようにと思っていたのが裏目に出たか、と彼は付け加える。
「声をかけてくれればよかったんです」
怒りを隠しきれないという声音でレイが言い切った。
「確かにね」
ラウも同じようなものだ。それはきっと、キラを怖がらせたからだろう。
「いつもなら、キラは俺のことがわかったはずなんですが」
ラウがムウをわかるように、とカナードは反論してくる。
「……言われてみればそうだね」
それだけでラウには何かがわかったらしい。彼の表情が少し和らぐ。
「なら、どうして……」
今日はわからなかったのか。誰にと言うわけではないが、レイが問いかけの言葉を口にする。
「ふむ」
思い当たる原因がないわけではない。そう考えながら、ギルバートはキラを手招いた。
「……ギルさん?」
何か、とキラが歩み寄ってくる。そんな彼の額にギルバートは手を当てた。
「やはり、熱があるね」
そしてこう呟く。
「それに疲労がたまっているのだろう? そのせいで知覚が鈍っているのだろう」
体調が悪ければよくあることだ。だから、安心していい。ギルバートは微笑みながら言葉を口にする。
「と言うことで、君はベッドに逆戻りだね」
キラに向かってギルバートはそう告げた。
「……でも……」
「今は体調を整えることが最優先だよ。でないと、ミナ様に私たちが怒られる」
だけですめばいいが、とため息混じりに続ける。
「大丈夫。カナードのことはうまくごまかしておこう」
任せておきなさい。ラウがそう言う。
「レイ。キラ君をベッドに」
さらに彼はレイに指示を出した。
「なら、俺も……」
カナードもこう言ってキラのそばに歩み寄ろうとする。
「お前は後だ」
そんな彼の襟首をラウがつかんだ。
「いろいろと言っておかなければいけないことがあるからな」
さらに彼は続ける。
「あきらめて、お小言につきあってもらおうか」
ギルバートも笑いながらそう言った。
「と言うことだからね。キラは先に部屋に戻っていなさい」
笑顔を向けるとギルバートは言葉を重ねる。
「はい」
今回のことに関してはフォローができないと判断しているのか。キラは素直に首を縦に振ってみせる。
「では、頼んだよ、レイ」
「わかっています」
にっこりと笑みを作るとレイはしっかりとうなずいて見せた。
「でも、できるだけ早くカナードさんを解放してあげてくださいね」
キラが寂しがるから、と告げる言葉は正しいのだろう。キラは困ったような表情を作っていた。
「わかっているよ。事前に連絡をしてこなかったことに関してのお小言だからね」
ラウの言葉にレイはうなずいてみせる。
「行きましょう、キラさん」
そのまま、隣にいるキラへ声をかけた。
「うん。ごめんね」
「謝ることはないです。当然のことですから」
こんな会話を交わしながら、二人は部屋を出て行く。
「……さて、ギナ様から何を言われてきたのか。正直に話してもらおうか」
二人の姿がドアで隠された瞬間、ギルバートとラウは異口同音に問いかけた。