空の彼方の虹
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ここにいることがばれている以上、キラを隠す必要はない。それよりも、人目にさらした方が彼の安全のためにはいいのではないか。
「何よりも、ミナ様の出迎えに連れて行った方がいいだろうしね」
ギルバートはそう言って微笑む。
「レイをそばにつけておけば完璧だろう?」
さらにこう付け加える。
「まぁ、それが確実だろうね」
自分が表立って動けない以上、とラウがうなずく。
「おそらく、出撃することになるだろうね」
そう言うと同時に、珍しく彼はため息をついた。
「戦場にいるのがザフトと地球軍だけならばいいが……」
さらに続けられた言葉の最後は適当に濁される。だが、言われなくても十分にわかってしまった。
「ギナ様か」
ミナはおとなしくしているだろうが、彼が何をしでかすかわからないのだ。
「鬱憤をためておいでだったからな」
いろいろと、とギルバートは呟くように口にする。
「それを戦場で晴らさないで欲しいものだね」
特に、自分達とは関係のない戦いの時に、とラウは言う。
「あきらめるしかあるまい。今回のことはプラントに非があるからね」
ラウをはじめとする隊長陣が気をつければいいだけだろう。
あるいは、ラウがこっそりと連携を取ればいいのではないか。
「要するに、こちらの不利にならないようにすればいいのだろう?」
違うのか、と言外に問いかけた。
「まぁ、そうだがね」
それでも、と彼はぶつぶつと呟いている。さすがに、鬱陶しくなってきた。本当にどうしようか、と思ったときだ。
「……ギルさん、いいですか?」
ノックの音とともにキラの声が響いてくる。
「どうかしたのかね?」
即座に問いかけた。
同時にラウが立ち上がるとドアの方へと歩み寄っていく。
「あの……」
ドアの外で何かをためらう気配が伝わってくる。
それが気になったのだろう。ラウはかまわずにドアを開けた。そうすれば、パジャマ姿のキラが所在なさげに立っている姿が確認できる。
「そのままでは体調を崩す。入りなさい」
ラウはそう言ってキラの肩を抱いて中へと招き入れた。
「それで、何があったのかね?」
彼が椅子に腰を下ろしたところでギルバートは問いかける。
「何か、部屋の外から変な音がして……レイが『確かめてくるから、ギル達のところに行っていてください』と……」
言われたから、来たのだ。でも、迷惑ではなかったのか。そう問いかけてくるあたりがキラらしいと言うべきか。
「君に何かある方が大変だよ」
ギルバートはそう言い返す。
「とりあえず、私も確認しに行ってこよう」
こう言うと同時に、ラウは部屋を出て行く。
「さて、何が起きているのか」
気のせいであれば、それでいい。だが、とギルバートはため息をつく。
「やっぱり、僕のせいでしょうか」
キラがこう問いかけてきた。
「ギナ様がちょっと暴れてくださったからね。原因はそちらだろうね」
困ったことだ、とギルバートは口にする。
「だが、ミナ様がおいでになると言うことだからね。ギナ様も少しはおとなしくなるのではないかな」
それに、他の者達も動くことをためらうのではないか。ギルバートは微笑みながらそう言う。
「そうなると、カガリ嬢も困るかもしれないがね」
彼女まで引っ張り出してしまった。その責任を取らなければいけないのはカガリだろう。
「……それがいやで、大使館を抜け出してきたのかな?」
ふっと思いついたというようにギルバートは呟く。
「なら、いいのですが」
キラは小さく同意の言葉を口にする。
しかし、それが真実だと二人とも考えていなかった。