空の彼方の虹
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「地球軍が動いたようだぞ」
開口一番、ギナはこう言った。
「どうするのですか?」
即座にカナードはそう聞き返す。
「キラとカガリを連れて逃げ出す、と言う選択肢はつぶされたようですが」
さらにこう付け加えた。
「とりあえず、キラとレイはここに呼び寄せておくべきかの」
後は、とギナは続ける。
「ラウに期待するしかあるまい」
意味ありげな表情とともに彼は言葉を重ねた。
「姉上がここに来るなら、任せられるだろうしな」
ギナはその表情のまま、さらに言葉を吐き出す。
「ギナ様?」
カガリが不安そうな声音で問いかけている。
「お前たちはミナの指示に従えばよかろう」
やはりか、とカナードは心の中で呟く。
「ギナ様……」
自分だけ、と思わず彼をにらみつける。
「お前はキラを守らねばなるまい」
そうだろう? とギナは平然と聞き返してきた。
「確かに、それはそうですが……」
それに関しては否定できない。
「しかし、それとこれとは別問題だと思いますが?」
だからといって引き下がるわけにはいかない。そう考えてカナードは聞き返す。
「そうですよ。何かあったら国際問題だと、さんざん人のことを脅かしてくれたのはギナ様ではありませんか!」
さらにカガリがこう言う。
「それは事実であろう?」
違うのか、と彼は逆に聞き返してきた。
「だからこそ、お前もカナードも、ここでおとなしくしておらねばならぬ」
キラを安心させる意味でも、と彼は続ける。
「だが、別の理由もあるからの。我は自由に動くだけよ」
自分はそうできる立場だ。そう言いきられてしまえば、カナード達には反論のしようがない。
「安心しろ。姉上がおいでになるまではおとなしくしていよう」
安心しろ、とギナは笑う。
「安心できると思っているんですか?」
ため息混じりにカナードは言い返す。
「ラウさんが何かを言うに決まっていますよ」
戦場を混乱させたとか何とか、と続けた。
「そんなもの、黙っていればわかるまい」
にやり、と彼は言う。
「ですから、そう言う問題ではないと……」
「そう言う問題よ、我らにとってはな」
昔からそうだった、と彼は平然と口にする。そんなこと、他国にばれたらどうなるのか。そう思わずにいられない。
「姉上の判断を仰いでからになるがの」
その言葉をどこまで信じていいものか。カナードには疑問でならない。
しかし、ギナのことだ。止めても無駄だと言うこともわかっている。
「キラに不安を与えなければ、どうでもいいですけどね」
結局は、とため息混じりに口にした。
「そうだよな。キラさえ気づかなければそれでいいのか」
カガリもそれで妥協することにしたらしい。首を小さく縦に振ってみせる。
「あれに気づかせるようなミスをするはずがなかろう?」
笑いながらギナは言う。
「それよりも、この情報をラウに知らせておくべきだろうな」
さらに彼はこうつげた。
「それについてはお任せします」
勝手にしてくれ、としか言いようがない。後は、ラウがうまくギナをコントロールしてくれることを祈るだけだ。
「……あれを動かせるようにしておきます」
とりあえず、万が一の時に動けるように、と続ける。
「それがよかろうよ」
あっさりと許可を出されたことがまた怖い。そう考えると、カナードは小さくため息をついた。