空の彼方の虹

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 朝が来ても何も変わらない。
 誰もがそう考えていた。
 いや、プラントでは大きな変化はなかった、と言うのは否定できない。
 しかし、世界はそうではないと言うだけだ。
「……月面から、地球軍の艦隊が出発した?」
 ウズミが確認をするようにそう言う。
「はい。確認しました」
 間違いない、とすぐに言葉が返される。
「そうか」
 厄介だな、とウズミは呟く。
「とりあえず、ロンド・ミナに連絡をしておけ。それと、プラントにいるギナにもな」
 自分達は動くことができない。後はサハクの双子に任せるしかないだろう。
 ウズミは自分に言い聞かせるように呟く。
「こういうときに傍観するしかないというのは辛いな」
 だからといって、オーブを危険にさらすわけにもいかない。ここには戦う術のない一般市民も多いのだ。国政を担うものとして、彼らを危険にさらすわけにはいかない。
「お前の子供達が無事に帰ってくるよう祈ることしかできないか」
 歯がゆいが仕方がない。サハクの二人が何とかしてくれることを祈ろう。そう思うしかないウズミだった。

 船室内にいるのは、マルキオとミナだけだ。しかも、お互いに自分の作業に没頭している。それだから、なのだろう。小さな音でも大きく聞こえるのは。
「あぁ、申し訳ありません。不調法なまねをしてしまいました」
 マルキオが即座にこう言ってくる。そのまま、落としたものを手探りで拾おうとしている。
「気になさらず」
 こう言うと同時にミナは彼が落としたものを拾った。
「……これは……」
「懐かしいでしょう? あの子達に渡そうと思いまして」
 苦笑とともに彼はそう口にする。
「確かに。まさか、これがまだ残っているとは思いませんでした」
 それはあの二人が生まれたときに、彼らの実の両親が渡したものだ。
 手のひらに包み込めるほど小さな木彫りの木の実のおもちゃである。中に何かが入っているのか。降ればからからと小さな音がする。
「カリダさんが持っていたのを、私が預かったのですよ」
 あの事件の前に、と彼は少しだけ声を潜めながら付け加えた。
「……そうですか」
 いったいどうして、と思う。
 それでも、だ。
 あの二人にとって実の両親を偲ぶよすがにはなるだろう。
「本当は、カガリさんにだけ、と思ったのですが……私もいつまで生きていられるかわかりませんからね」
「マルキオ様、それは……」
 周囲の者達の尊敬を集めているとはいえ、彼はウズミと同年代のはずだ。そのようなことを口にするような年ではない。
 それとも、とミナは心の中で呟く。そう言いたくなるようなことがあったのだろうか。
「……ブルーコスモスが何か?」
 一番可能性があるとすればこれだろう。
「私がヒビキ博士と親しくしていたことを聞きつけたのでしょうね。あれこれと質問をされましたよ」
 もっとも、自分が答えられない内容ばかりだったが。彼はそう付け加えた。
「そうですか」
 ますます厄介だな、と思う。同時に、彼の周囲にも護衛を配置しておいた方がいいかもしれない。それも内密に、と心の中で呟く。
 そのときだ。
「ミナ様」
 コクピットから兵士の一人が姿を見せた。そのまままっすぐにミナの元へと歩み寄ってくる。
「ウズミ様から連絡が入っております」
 ミナの耳元でこうささやく。それはマルキオに聞かせないためと言うよりは、彼女宛だと伝えるためだろう。
「わかった」
 厄介事が追いかけてきたようだ。そう思いながら、ミナは立ち上がった。


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最遊釈厄伝