空の彼方の虹

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 後始末を終えてラウが戻ってきたのは、日付が変わってからそれなりの時間が経ってからのことだった。
「君一人かね?」
 彼の隣にギナの姿がないことを確認して、ギルバートはそう問いかける。
「いろいろと修復しなければいけないところがあるそうだ。きっと、カナードもつきあわされて徹夜だろうね」
 と言うことはシステム関係か。それならば、確かにプラント側は手出しをできない。
 しかし、とギルバートはため息をつく。
「相談したいことがあったのだがね」
 さて、どうするか。口の中だけでギルバートは呟いた。
「緊急事態のようだね」
 ラウが即座に問いかけてくる。
「まぁ、ね。しかし、ここで話すことではないか」
 エントランスで立ち話ではないだろう、とギルバートは苦笑を浮かべる。
「書斎に移動でかまわないかね? 軽食ぐらいならすぐに用意できるだろうし」
 かまわないか、と言外に問いかけた。
「そうだな。それにカルクでいいからアルコールをつけて欲しいね」
 そうでないとやっていられない。彼が珍しくこんなセリフをこぼす。
「もちろんだよ。私も酔いたい気持ちだからね」
 さすがに二日酔いになれるほど飲んでいられないだろうが、と心の中だけで付け加える。
「では、移動しようか」
 そこでゆっくりとお互いの持っている情報を交換しよう。ギルバートのその言葉にラウもうなずいて見せた。

 ギルバートの話を聞いた瞬間、頭痛を感じたのは当然のことではないか。
「何を考えている、パトリック・ザラ……」
 そのまま、こう呟く。
「コーディネイターの未来、だろうね。とりあえずは」
 彼は彼なりに未来を手にしようとしていた。それは間違いない。ギルバートはそう続ける。
「だが、それは己と周囲の者達だけのものだったと言うことだよ」
 自分があれを手に入れ、その地盤を確固たるものにする。そして、それを己の血を引くものへと継がせようとしているのだろう。
 それは、人としては当然の考えではないか。
 しかし、だ。
「そのために、他人の命を危険にさらしていいと言うことではないだろうが」
 実際に、彼の行動で失われた命があるのだ。
「どちらにしろ、ギナ様に報告しないわけにはいくまい」
「そうだな」
 ラウの言葉にギルバートもうなずいてみせる。
「それと、クライン議長にも報告しないわけにはいかないだろうね」
 ラクスのこともある、とラウは言った。
「そうか。そういえば、そちらの方は?」
「この戦争が終わり、キラが十五になったときに、彼の選択に任せる。そういうことでまとまったよ」
 それ以外のデーターに関しては、彼らがオーブに戻り次第、タッド宛てに送ることになった。そう続ける。
「ギナ様が判断されたのなら、こちらには何の問題もないね」
 ギルバートはそう言いながら、背中を椅子に預けた。
「キラはこのことを知っているのかね?」
 ラウは一番聞きたかったことを問いかける。
「大丈夫。ザラ委員長が来たことも気づいていないはずだ」
 彼が来たときにはしっかりと隔離していたから、と彼は笑った。
「レイと執事がそばに付いていたからね。それだけは確実だよ」
 さらに彼は言葉を重ねる。
「そうか」
 他のことはともかく、キラがパトリックと顔を合わせなかったのならば問題はない。
「さて……明日からどうなるのか」
 自分達はどう動くのか。それを考えなければいけない。
「ミナ様がおいでになること以上の問題はないよ」
 しかし、それに対するギルバートの答えはこれだった。
「そうかもしれないが……」
 もっと別の何かがあるのではないか。ラウはそう思う。
「今、私たちの手の届く範囲の事案は、そんなものだよ」
 さらりとギルバートは口にする。それが真実なのだろう。
「もう一杯、もらおうか」
 こうなれば、酔うしかない。ため息とともにラウはグラスをギルバートにつきだした。


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最遊釈厄伝