空の彼方の虹
113
目の前に盛り上げられるように乗せられたデザートの山に、キラは目を丸くしている。
「……何で、こんなに……」
キラの疑問はもっともなものだとレイも思う。
「ロンド・ミナ様がおいでになると耳にしましたので、いろいろと試作をしてみたのだそうです」
この中から、彼女が好きそうなものを選んで欲しい。そう続けられる。
「それでも多いよ」
この量は、とキラは呟く。
「大丈夫です。俺と半分ずつなら、すぐです」
レイがこう言ってくる。
「それでも結構な量だよね」
カガリやカナードであればすぐに食べてしまうのだろうが、とため息をついてしまう。それができないから、自分は小さいままなのだろうか。
今だって、レイの方が体格がいい。
食事の量だって、彼の方が多いのも否定できない事実だ。
しかし、と思う。
食べたくても食べられない。無理して食べる方が体に悪いとカナードだけではなくサハクの双子も言っていたし、と心の中で付け加える。
「……三分の一でもいい?」
そして、確認するようにキラは口にした。
「それならば、全部食べられると思うんだけど」
さらにこう付け加える。
「もちろんですよ。後は……執事さんに手伝ってもらいましょう、責任を取って」
レイはすぐにこう言ってくれた。
「かまいませんよね?」
そのまま彼はそばに立っている執事へと問いかける。
「レイ様とキラ様のご許可がいただけるのでしたら」
彼はすぐにこう言い返してきた。
「なら、お願いします」
ほっとしたようにキラは口にする。
「かしこまりました。では、とっておきのお茶を淹れさせていただきましょう」
彼はそう言って微笑む。
「それはおいしそうです」
ね、と視線を戻してきたレイに、キラもうなずいて見せた。
「でも、ミナ様までいらっしゃるなんて……」
そんなに大変なことになっていたのか。そう思わずにいられない。
「……たぶん、上の方で何かあったのでしょう」
自分達の知らないところで、とレイは言葉を返してくる。
「カガリさんとカナードさんが地球軍の船と一緒に戻ってきたのは、かなりまずかったですしね」
プラント的には、と彼は続けた。
「それで条件を出されたのかな?」
あり得る、とキラは思う。
「僕のことだけでも大変だったろうに……ギナ様、よく、我慢されてたよね」
彼ならばとっくに爆発をしていてもおかしくはないのではないか。
「キラさんがいたからではないですか」
レイがすぐにこう言ってくる。
「そうかな?」
「きっと、そうですよ」
力一杯言われると納得しないといけないような気がするのはどうしてだろうか。
「そういえば、ギナ様はキラ様がお休みの時に、よく寝顔をのぞきに行かれておられましたな」
お茶の支度が終わったらしい執事がこう言ってくる。
「そうなのですか?」
自分の寝顔なんかを見て楽しいのだろうか。そう思いながらキラは聞き返す。
「本当ですとも」
執事は嘘を言っているようには思えない。
「……女性の寝顔を見ればいいのに、ってよくからかわれているのに」
ギナもミナも、いい加減、結婚してもおかしくはない年齢ではないか。ホムラがよくそう言っていたことをキラは知っていた。
「まぁ、まぁ。キラ様。それよりもお砂糖はどうなさいますか?」
「……ケーキだから、いいです」
少し考えてこう言い返す。
「では、どうぞ」
言葉とともに紅茶が目の前に差し出された。
「まずはどれから味見をしますか?」
さらにレイが声をかけてくる。
「とりあえず、これ?」
最初に目をつけていたものをキラは指さす。そうすれば、すぐに執事が切り分けてくれる。
目の前にそれがおかれたときにはもう、キラは先ほどの不安を忘れていた。