空の彼方の虹

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 まさか、彼がまだあきらめていないとは思っていなかった。
 執事から来客の報告があった瞬間、ギルバートは渋面を作る。それでも、無視をするわけにはいかない相手だ。
「キラとレイには、部屋から出ないように伝えてくれ」
 来客が来ているから、と説明すれば大丈夫だろう。
「客の名前は告げなくていいからね」
 とりあえず、と続けた。
「かしこまりました」
 彼はそう言うと頭を下げる。これでキラ達のことは心配はいらない。
 問題は客の目的だ。
「この状況で何をしに来られたのか」
 言い訳というわけではないはず。
 あるいは、とギルバートが眉根を寄せる。
「キラがこちらに戻っていることを知っておいでか?」
 そうだとするならば、厄介だとしか言いようがない。彼の帰宅は自宅にいるもの以外知られていないはずなのだ。
 それとも、大使館から連絡が行ったのか。
 しかし、それにしてはタイミングが合わない。
「お会いするしかないのだがね」
 さて、何を言いだしてくれるか。
 もっとも、それを受け入れるかどうかは別問題だ。特に彼らの身柄に関しては、である。
「あの人に頼まれているからね」
 あの三人のことは、と続けた。そして、それは自分達には何をおいても守らなければいけない約束だと言っていい。
「……いざとなれば、さっさと逃げ出せばいいだけか」
 プラントでの影響力は捨てるには惜しい。だが、キラ達とは比べものにならないのだ。
「アメノミハシラであれば、レイもキラ君のそばにいられるしね。それもいいかもしれない」
 別も問題が出てきそうな気はするが、と苦笑を浮かべる。
「ミナ様が到着されるまで時間を稼げれば、それで十分だろうね」
 相手にしても、サハクの双子がそろってプラントにやってくる意味がわかるはずだ。そう呟いていた。

「わざわざのおいで、何事でしょうか?」
 立ち上がりながらギルバートが問いかけてくる。
「言わなくてもわかるものと思っていたが?」
 パトリックは逆に聞き返した。
「……わかっているからこそお聞きしているのです。この状況であなたがここにおいでになられた。それがプラントの立場を悪化させるかおわかりになっておられるでしょうに」
 オーブ大使館では、別の話し合いが行われている。それなのに、とパトリックがここで別の話し合いを行おうとしているのだ。
「……だが、お前はプラントの民のはずだ」
「だからこそ、あなたのお言葉を聞き入れるわけにはいきませんね」
 プラントの未来のためには、とギルバートは言い返して来る。
「我々は十六年前から準備を進めていたのです。それを壊されては困ります」
 すでに一度、パトリックのせいで計画がすべて頓挫しそうになったのだ。彼はさらに付け加える。
「何のことかわからない、とはおっしゃいませんよね?」
 逆にそう問いかけられた。それが、あの親子を見捨てたことだとすぐにわかる。
「あれのせいで、オーブ側の態度が硬化しているのですよ?」
 あの一件がなければ、すでにこちらにデーターが引き渡されていたかもしれない。
「それに、今、彼らをプラントで拘束しても、データーは手に入りません」
 さらに彼はこう言った。
「それは……」
「データーを解凍するためには、彼ら三人が必要です。しかし、その前にそのデーターを取り出すためには、アスハとサハクの当主の承認が必要だから、ですよ」
 そのうち、サハクの双子がパトリックにタイして抱いている印象は、すでに最悪だと言っていい。
「カリダ・ヤマトが生きていれば、そのプロセスは飛ばせたのですがね」
 すべては、パトリックの判断ミスだ。しかし、それはまだ取り戻せる。
 しかし、ここでさらなるミスを犯せばどうなるか。
 それがわからないパトリックではない。
 だが、と彼は唇をかむ。
「オーブが本当にそのデーターを渡してくれるのか。その確証があるのか?」
「ありますよ。だから、私はまだ、プラントにいるのです」
 ためらうことなく、彼はそう言い返してきた。


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最遊釈厄伝