空の彼方の虹
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いつの間にか眠っていたのか。気がついたときには、ベッドの上にいた。
「……あれ?」
しかし、ここは大使館ではない。ギルバートの屋敷だ。
「いつの間に帰ってきたんだっけ?」
キラはそう呟く。
「何か、そう言う話をしていたような気もするけど」
はっきりとは覚えていない。と言うことは、そのときにはもう、自分の意識は半分眠りの中にあったと言うことだろうか。
「これじゃ、いつまで経っても兄さんが心配するよね」
せめて、彼にだけは心配をかけないようにしないといけない。そう考えているのに、だ。
しかし、この体はちょっとしたことでバランスを崩す。
これでは、彼の足を引っ張るだけのような気もしなくない。
「せめて、もう少し丈夫になれればいいんだろうけど」
こればかりは精神的なものだから、訓練をしてもどうにもならないらしい。そして、その原因があの日にある以上、誰にもどうすることもできないのだ。
医者にはそう言われている。
カナードも『気にするな』とは言ってくれた。
それでも、だ。
「守られるだけじゃ、いやなのに」
だが、現実として自分ができることは少ない。いつもカナード達に守られていてばかりだ。
「それじゃ、だめだよね」
こう呟きながら、キラは体を起こす。
めまいはしない。痛む場所もない。
「大丈夫だね」
起きても、と思う。
「とりあえず、レイを探そうかな」
彼とであれば、気を遣わなくても会話ができる。だから、帰ってくるまでに何があったのかも聞き出せるだろう。
そんなことを考えながらベッドから足を下ろす。素足に伝わってくる床の冷たさが心地よい。と言うことは、熱もないと言うことだ。
そんなことを考えながら立ち上がった。
ふらつくのは、今まで眠っていたからか。
「ともかく、水……」
のどが渇きを訴えてくる。レイを探しに行く前にこれを何とかした方がいいだろう。
そう判断をして、サイドテーブルにおかれていたグラスへと手を伸ばす。
「起きていたんですか?」
タイミングを合わせたかのようにレイが姿を見せた。
「のどが渇いたから」
それだけではないが、と心の中で付け加える。
「なら、ちょうどよかったです」
にっこりと微笑むと、レイは手にしていたボトルを差し出してきた。
「今、オレンジを搾ってもらったんです」
飲みましょう、と彼は告げる。
「うん」
キラは小さく首を縦に振ると微笑んだ。
「でも、レイの分じゃないの?」
「多めに作ってもらいましたから」
大丈夫です、と彼は言う。むしろ、そう言う点に抜かりはない、とでも言いたげだ。こういうところがレイのすごいところかもしれない。
「ともかく、座ってください」
にっこりと微笑みながらも有無を言わせないところも、だ。
「……そう言えば、みんなは?」
椅子に腰を下ろしながらとキラは問いかける。
「ギルは書斎で何かをしています。ラウはギナ様達と、まだ、大使館ですね」
しばらくかかるのではないか、とレイは付け加えた。
「何かあったの?」
ギナだけならばともかくラウも、と言うのであれば、大使館の修理に関することだけではないだろう。そう思いながら聞き返す。
「……ロンド・ミナ様がこちらに向かっておいでだそうです」
サハクの双子がそろうのか、とギルバートがため息をついていた。レイはそう教えてくれる。
「……ミナ様が……」
それはそれで、厄介事の始まりではないか。
「早めにオーブに帰してもらわないと、大変なことになるね」
これは間違いなく、とキラはため息混じりに口にした。