空の彼方の虹

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 早々にキラを帰しておいてよかった。カナードは室内に入ってきた相手を見て、そう思う。
「……アスラン、お前なぁ……礼儀も忘れたのか?」
 あきれたようにカガリが口にする。
「女性がいる場所に、ノックもなしに入るのはマナー違反ですわよ」
 ラクスもこういう。
「隊長の指示を仰ぎたかったのだが」
 言葉とともにアスランは室内を見回す。だが、彼の視線がラウを探しているのではないことはすぐにわかった。
「キラならいないぞ」
 カガリが爆弾を投げつける。
「何故!」
 彼も関係者だろう、と即座に言い返してきた。本当にわかりやすい、と思う。だからこそ、忌々しいのだ。
「熱を出していたからな。デュランダルに頼んで連れて帰ってもらった」
 カガリがため息とともにこう告げる。
「こちらでの主治医は彼だからな。いや、それ以前に、彼はキラが生まれる前から知っている。だから、適切な治療をしてくれるはずだ」
 カナードは努めて感情を出さない声音でカガリの言葉を補足する。
「あいつは昔経験した事故のせいで爆発音がだめなんだ」
 自分が助けに行くのが遅かったせいで、とカナードは無意識に本音を漏らす。
「仕方はあるまい。あのときは誰も間に合わなかったのだから」
 ギナが慰めるように声をかけてくれる。それはきっと、彼もあのときのことを後悔しているからだろう。
「そう言うわけだから、貴様はしばらく、あの子に近づくな」
 これ以上体調を崩すようなことになれば彼のためにならない。
「ミナが迎えに来ている以上、なおさらだな」
 ギナがさらに付け加えた言葉を耳にした瞬間、アスランの表情がこわばる。
「それで、何のようなのかね?」
 ラウが思い出したようにアスランに問いかけた。
「エルスマン議員とジュール議員がおいでです」
 イザークとディアッカをつれて、とため息とともにアスランは言い返す。
「お目にかかるしかないであろうな」
 この場に案内にするのは気が引ける。しかし、ここしか無事な場所はないから、とギナはため息をつく。
「問題はないと思いますわ。皆様、おわかりのはずですもの」
 ラクスが安心させるように口にする。
「ご案内してくれ」
 ラウがアスランにそう命じた。
「俺は別室に下がっていますか?」
 ギナやカガリは問題はない。だが、自分はオーブでは何の地位も与えられていないのだ。だから、とカナードは問いかける。
「かまわぬ。お前たちにも無関係の話ではあるまい」
 キラがいない以上、カナードが聞くのは当然のことだ。ギナはそう告げる。
「わかりました」
 そういうことであれば遠慮はしない。
「アスラン」
「……はい」
 あからさまに落胆の色を隠さずに、アスランは部屋から出て行く。
「困ったものだね。まだ納得していないか」
 いったい、何が原因なのか。ラウがそう呟く。
「無意識の癖でしょうか」
 同一人物なのだ。無意識の反応は変えようがない。それを感じ取っているからこそ、アスランは未だに納得しないのだろう。
 しかし、それではいつまで経っても堂々巡りだ。
 だからといって、真実を教えるわけにはいかない。
「さて、どうするべきか」
 ギナがそう呟く。
「いっそ、あいつが全部忘れればいいんだ」
 カガリがそう吐き捨てる。
「そう都合よくできればな」
 確かに、そうすれば一番簡単だ。だが、アスランのことだ。そう簡単に記憶を失うはずがない。万が一そうなったとしても、きっと思い出すだろう。
「二度と会わないようにするのが精一杯か」
 二人だけでどこかに逃げだそうか。そんなことすら考えてしまうカナードだった。


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最遊釈厄伝