空の彼方の虹
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「叩けばほこりが出る、とはわかっていたが……ここまでとはな」
あきれるしかない。ムウは吐き捨てるようにそう口にした。
「オーブでは禁止されているはずなのだがな」
キサカもそう言ってうなずく。
「どちらにしろ、まだ、移植前でよかった」
彼はさらに言葉を重ねた。
「確かに。これが母体に移植されていたら、処分するにもできないところだったな」
いくら自分でも、とムウは顔をしかめる。
「確かに」
例え、相手がブルーコスモスの構成員とはいえ、母体に負担がかかるようなことはできない。まして、まだ罪も犯していない胎児を殺すのは寝覚めが悪いだろう。
そもそも、この受精卵が無事に出産までこぎ着けたとしても、彼らと同じ存在になるかどうかはわからない。
コーディネイトした受精卵も、母胎の影響を受けないわけではないのだ。
「あぁ……だから、あれか」
それを解決できるかもしれない手段。まだ不完全なものでしかないが連中にしれ見ればそれで十分だったのだろう。
「だろうな」
しかし、とキサカが続ける。
「今、それを手に入れてどうするんだろうな。子供が成長するまでに何年かかると思っているのか」
とりあえず、使い物になるとしても十数年。その間、連中は戦争を続ける気だったのだろうか。
その可能性はあり得る。ムウはすぐにそう判断をした。
言葉は悪いが、戦争は金になるのだ。
きっと、セイランもそれに絡んでいる。
「……セイランの金の流れも確認しておいた方がいいのか?」
ムウはそう呟く。
「一応、それに関しては手を打ってあるが……問題は、情報部にもあちらの息のかかったものがいることだ」
彼らに邪魔される可能性もある。キサカはそう言ってため息をつく。
「……厄介だな」
それは、とムウは口にする。
「ひょっとして、俺が生きていることもばれているのか?」
「それは大丈夫だろう。セイランの方できっちりと処理しているはずだ」
IDが異なる以上、他人の空似で済ませられる。
「……お前たちはメンデル出身だからな。それだけであちらも納得せざるを得ない」
いろいろと勘ぐられるだろうが、と苦笑とともにキサカが付け加えた。
「だよなぁ」
いいのか、悪いのか。考えても答えは出ない。
「ラウの野郎はともかく、キラとカナードとレイはかわいいからいいのか」
苦笑とともにそう呟いた。
「と言うわけで、さくさくと進めますか」
まだまだ悪事の証拠があるはずだ。だから、と口にしながらムウはのびをする。
「そうだな」
時間は有効に使おう、とキサカもうなずいて見せた。
「こうなるとわかっていたら、ジャンク屋あたりから助っ人を呼び寄せておくんだったな」
キラがいてくれれば一番よかったのかもしれない。しかし、彼に見せたくないデーターも多数あるのだ。
「あきらめてくれ」
データーに強くないのは自分も同じだ。キサカがそう言ってくる。
「しかし、ここにあるデーターは他人の目に触れさせるわけにはいかない。ウズミ様もそう考えておられるから、我らに任せたのだろう」
「わかっているよ」
でも、面倒なものは面倒なのだ。ムウはそう続ける。
その間にもとりあえず、手は動かしていた。
「全く……カガリ達には見せられない姿だね」
キサカが即座にこう言う。
「悪かったな」
本当に、さっさと終わらせないと、何を言われるかわからない。そう考えると、ムウはとりあえず作業に集中することにした。