空の彼方の虹
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ラウはよく知っているからいい。しかし、彼女は誰なのだろうか。そう思いながら、キラはカガリの隣に座っている少女を見つめていた。
「あぁ、そうだ。お前は初対面だったな」
その視線だけでキラが何を言いたいのかわかったのだろう。カガリがふっと笑みを作る。
「こいつがラクスだ。話だけは前にしただろう?」
そして、こう教えてくれた。
「初めまして、キラ様」
カガリの後に続けてラクスが微笑みとともに言葉を口にする。
「初めまして」
挨拶を返しながらも、キラは無意識にカナードの方へと移動してしまう。
「安心しろ、キラ。こいつはお前を傷つけはしない」
カガリが笑いながらそう言ってきた。
「女性にその態度は失礼だからの」
さらにギナも笑いながらこういう。
「二人とも、キラをいじめないでください」
ただ一人、カナードだけがキラの行動を受け入れてくれる。
「さっきのことで、かなりナーバスになっているのですから」
他の時ならばまだしも、と彼はキラの肩を抱きしめた。
「……まぁ、そうかもしれないけどな」
カガリも、それは否定できないのだろう。素直にうなずいてみせる。
「だけど、女性まで怖がることはないだろう?」
しかも、自分の友人だぞ? と彼女は主張した。
「……でも……」
「女性だからといって安心はできないな。人が目を離した隙に、こいつをお持ち帰りしようとしていたのも女性だったぞ」
セイランの関係者の、とさりげなくカナードは言わなくてもいいことを言ってくれる。
「それは初耳だな」
キラ、とギナが視線を向けてきた。
「だって……道を聞かれたんだもん」
キラはそう言い返す。
「困っている人には親切にしろって、言われていたし」
だから、と続ける。
「……まぁ、お前から目を離した俺が悪いんだがな」
そういうことだから、とカナードはラクスに視線を向けた。
「ご心配なく。初対面の人間が目の前にいて緊張される方は多いですから」
キラくらいの年齢であれば特に、とラクスは微笑んでくれる。その表情は優しいのに、どこかミナに通じるものがあるような気がするのは錯覚だろうか。
「とりあえず、こいつの歌は聴く価値があると思うぞ」
カガリはそう付け加える。
この言葉に、キラはレイへと視線を移す。
「帰ったら貸しますよ」
ありますから、と彼はうなずいてみせる。
「と言うところで、キラは先に帰っているがよい。そろそろ、ギルバートの手が空いたであろうしな」
ごたごたするよりはギルバートの家でゆっくりしていた方がいいのではないか。ギナはそう言ってくる。
その言葉に、反射的にキラはカナードに抱きついた。
「久々に会えたんだから、もう少し、一緒にいたいです」
キラはそう口にする。
「そうは言うが、話し合いをせねばならぬこともある」
キラが知らない方がいいこともあるのだ、とギナは言い返してきた。
「いい子だから、今日だけは言うことを聞け。代わりに、カナード達があちらに足を運べるように交渉する故」
プラント側にしても、今回の一件があるからこちらの条件を呑まざるを得ないだろう。ギナはそう言った。
「今回だけは仕方がない。あきらめろ、キラ」
カナードにまでこう言われては仕方がない。キラは渋々ながらうなずいてみせる。
「いい子だ」
ちゃんと会いに行くから、とささやくカナードが何を考えているのか。それもよくわかってしまう。
「無理はしないでね?」
とりあえず、ギナに怒られない程度にして欲しい。言外にそう告げるしかできないキラだった。