空の彼方の虹
107
「遅かったか」
目の前の光景に、ラウは苦笑を浮かべるしかない。
「それはこちらのセリフよ」
彼の声をしっかりと聞き取ったのだろう。ギナがこう言い返してくる。
「これでもあれこれと根回しを終えてきたのですが」
苦笑を深めると、ラウは言葉を投げ返す。
「とりあえず、襲撃チームは下げさせました。ここで伸びている連中も回収させていただきます」
それに関しては妥協して欲しいものだ。そう思いながら言葉を綴る。
「どこぞの馬鹿が功を焦った結果であろう? 大使館の早急な回復とともに忘れてやるわ」
ギナはそう言って笑う。
「もちろん、そうさせていただきますよ。なぁ、ギル?」
「……結局は、私の仕事になるのか」
ため息とともにギルバートが顔を出す。どうやら、安全だと思われる通路に身を隠していたらしい。
「専門だろう? わたしがしてもいいが……ミナ様がおいでになる前に終わらせる自信がないのでね」
やはり、と言うべきなのだろうか。目の前の三人は、三者三様の表情を作っている。もちろん、そうなるであろうとわかっていて口にした言葉ではある。
「姉上も、キラ不足が極限まで行ったと見える」
確かに、彼女がこれだけ長くキラと離れていたことはないからな。ギナはそう呟いている。
「そのキラとカナードは? レイも来ているはずだが……」
ふっと思い出したようにラウは問いかけた。
「まだ、安全な場所に避難させている」
即座にカガリが言葉を返してくる。
「それとラクスとそのおまけがいたな」
捨ててもいいあれが、と彼女は付け加えた。
「不本意ながら、私の部下だが?」
捨てたいという言葉には思い切り同意をするが、とラウもうなずく。
「とりあえず、落ち着けるところに移動しよう。カガリ、キラ達を呼んでくるがよい。ラクス・クラインもな」
アスランは適当に追い出せ、とギナは続ける。
「ここの後始末を任せましょう」
アスランに、とラウは言う。
「何かをさせておかなければ首を突っ込んでくるでしょうから」
後始末を命じても、あれこれ口実をつけて顔を出すに決まっている。だが、それならば、自分だけが彼に会えばいいだけのことだ。
「任せる」
ギナはすぐにそう言い返してくる。
「では、移動だな」
そのまま彼はきびすを返した。そして、もう、後のことには興味がないと言った様子で歩き出す。
「では、後は頼むよ」
自分は修理のための手配をしてくる、とギルバートはラウの肩を叩きながら、言う。
「終わり次第、合流するがね」
「そうしてくれると、話は早いだろうな」
ミナが動いた以上は、とラウはうなずく。
「しかし、彼女がこれほど早く動くとはね」
苦笑とともにささやかれた言葉に、ラウは「そうでもない」と言い返す。
「むしろ、遅い方だよ。あちらでも何かが起きていたのかもしれないね」
それがブルーコスモスがらみでなければいいが。ラウは心の中だけでそう付け加える。
「どちらにしろ、こちらの厄介事もさっさと終わらせなければなるまい」
キラ達が自由に動けるように、と続けた。
「確かに。それに戦争が終われば一番いいのだがね」
別の問題だけに集中できる。ギルバートはそう言って笑う。
「それが一番厄介だ思うが」
ため息とともにラウはそう言い返した。