空の彼方の虹
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爆発の原因は、他の者達が考えていたのとは違った。
「ふむ……いささか、威力が強すぎたか?」
ギナはそう口にしながら立ち上がる。
「音と照度は希望通りだが……」
爆発の規模が大きいか、と冷静に呟く。
「強すぎです!」
カガリが身を起こしながらこう突っ込んでくる。
「人死にが出たら、どうするんですか!」
危ないです、と彼女は続けた。
「何。そのときはそのときよ」
運が悪かったなと言って終わりだろう。ギナはそう言い返す。
「……ギナ様」
「オーブの人間には被害が及んでおらぬのだから、いいではないか」
ザフトの兵士については知らない。彼はそう続けた。
「襲ってきた連中の生死にまで責任を取る必要はないだろうからな」
そこまで心を砕けば、自分の部下達の命を危険にさらすことになる。敵と味方のどちらを優先するか、そんなことは考えるまでもない。
「何よりも、ここにオーブの人間はお前と私しかおらん」
他の者達は下がらせた。
本当のことを言えば、カガリも下がらせる予定だったのだ。しかし、彼女は素直に後退してくれなかった。だから、巻き込む羽目になったのだ。
「……まぁ、いいですけどね」
ため息とともにカガリは立ち上がる。
「オーブの首長家の人間であれば、最前線にいるのが当然ですから」
それがウズミの教育なのだろう。
「だからといって、無理をするでない」
カガリがけがをしては元も子もないからな。ギナは言外にそう告げる。
「わかっています」
カガリはすぐにうなずいて見せた。
「それよりも、これで終わったと思いますか」
今のは、間違いなく地下まで伝わっただろう。キット、キラが心配している。だから、とカガリは続けた。
「今しばらく待て」
まだ、あちらの動きが完全に止まったとは言いがたい。状況を確認する時間が必要だろう。
「わかりました」
ギナの言葉からカガリもそれを察したのか。すぐにうなずいてみせる。
「ところで、ギナ様」
ふっと思いついたように、カガリが声をかけてきた。
「何だ?」
「先ほどのあれに、唐辛子の粉を詰めたら、どうなるでしょう」
爆発の威力は弱くなるだろうが、別の意味で強烈になるのではないか。彼女はそう問いかけてくる。
「自分が室内にいないときはいいかもしれん」
昔から使われてきたはず、と思いながらギナは呟く。
「実験用に作らせるか」
にやり、と笑いながらうなずいた。
「その前に、だ」
カガリ、と彼女を手招く。
「どうかしましたか?」
即座に彼女は近づいてくる。その体を片手で己の背後へと移動した。
「何者だ!」
そのまま、奥へと続く通路へと視線を向ける。
「私ですよ、ギナ様」
返されたのは聞き覚えがある声だ。
「そろそろ私が必要ではないかと参上したのですが?」
芝居がかった口調で彼はそう続ける。
「もう少し遅かった方がいいかもしれぬな」
まだ、あきらめていないものがいるようだ。そう呟くと、意識を切り替える。
「よほど、きつく命じられているのでしょうね」
厄介です、と彼はうなずく。
「自分の身は自分で守れよ、デュランダル?」
「まぁ、何とかしましょう」
ギナの言葉にギルバートはそう言い返してくる。
後はもう、彼のことは意識の外に追い出した。