空の彼方の虹
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大使館から、爆発音のようなものが聞こえてくる。
「……何があった?」
こんな音がしては、さすがにことをもみ消すことは不可能ではないか。同時に、そうしなければいけない状況になった、と言うことでもある。
「クルーゼ隊長?」
反射的に駆け出した彼を、兵士が慌てて止めようと手を伸ばしてきた。
「避難誘導をしないわけにはいくまい!」
この状況で、とラウは言い返す。
「それとも、オーブの人間であれば同胞であろうと、死んでもかまわないと考えているのかね?」
その結果、両国の関係が悪化するかもしれない。いや、間違いなく、悪化するだろう。
「何よりも、あそこにはオーブの首長家の直系が二人もいるが?」
カガリは国民に人気がある。ギナにしても、尊敬されていると言っていい。そんな彼らがプラントで死んだとなれば、間違いなくオーブ国民はプラントに憎しみに近い感情を抱くだろう。
その結果、あの国から輸入されている食材が入手できなくなったとすれば、被害を受けるのは間違いなく一般市民だ。
この言葉に、彼も完全に動きを止める。それを確認して、ラウは走り出した。
「……無事でいればいいが……」
キラは大丈夫だろう。ギナも、この程度で死ぬとは思えない。
問題があるとすれば、カナードとカガリだ。
あの二人は、キラを守ろうとして無茶をしかねない。特にカナードは己の命すらも捨てかねないのだ。
しかし、それはキラにとって逆効果だと言っていい。
今の彼は、大切だと思っている相手を失うことを怖がっている。
もし、身近な誰かの命が失われれば、キラは間違いなく、癒えない傷を負うことになるだろう。最悪、自分自身すら消しかねない。
「それを理解しているのだろうね?」
カナード、とラウは呟く。
「サハクの双子のことだ。しっかりとたたき込んでくれているとは思うが」
それでも、実際にその場面になったらどうなるかわからない。
「ギルとレイもそろそろついている頃か?」
あるいは、それが引き金になったのだろうか。
どちらにしろ、自分の目で確認しなければ納得できない。
「邪魔をするな!」
進路を塞ぐように現れたザフトの兵士に向かって、ラウはこう叫んでいた。
上階から振動が伝わってくる。
「何があったのでしょうか?」
レイがそう言うとともに表情をこわばらせた。その視線の先では、キラがカナードにすがりついている。
「確認をしてくるしかないだろうね」
ギルバートは冷静な口調を作るように気をつけながら言葉を綴った。
「ギナ様達から連絡は?」
念のために、とカナードに問いかける。
「ありません」
即座に彼はそう言い返してきた。
「……と言うと、まずい状況になっている可能性があると言うことか」
さて、どうするか。ギルバートは呟く。
「俺が見てきますか?」
カナードがこう問いかけてくる。
「お二人がいるなら、キラもとりあえず安心でしょうし」
だから、と彼は続けた。
「いや、私が行ってこよう」
それにギルバートはこう言い返す。
「君も連中にとっては捕縛対象だと言っていい。もしも、カガリ嬢の身柄がすでにあちらの手に落ちているのであれば、厄介なことになる」
自分ならば何とでもなるし、と続けた。
「なら、俺が!」
今度はレイが口を開く。
「いや、お前もキラ君達のそばにいなさい。万が一の時には、二人と一緒に避難しなさい」
いいね? とギルバートは言う。
「私なら、いくらでもいいわけができる。そして、彼らもうかつに手出しできないからね」
だから任せておきなさい。こう言うと、ギルバートは笑った。