空の彼方の虹

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 さすがに、パトリック直属の者達でも歴戦の勇者の一人であるラウは無視できないらしい。
「……何故、ここに?」
 だからといって、素直に通してくれないか。ラウは小さなため息をつく。
「何故、と言われても……先日、地球軍の船から保護してきた二人に話を聞くためだよ」
 至急、確認したいことができた。そう続ける。
「アマルフィ氏からの依頼でね」
 奪取してきた最後の機体について、彼に聞きたいことがある。そう言われたのだ。
「それが何か?」
 逆にこう問いかける。
「……何か、と言われましても……」
 困った、と言うように彼は視線を彷徨わせ始めた。と言うことは、作戦の内容も『内密に』と命じられているのだろう。
「とりあえず、通してもらうぞ」
 ラウはそう言った。
「……それは……」
 困る、と相手は言葉を返してくる。
「我々は、ここを封鎖しろと命じられています。隊長の許可がなければ、例えクルーゼ隊長といえどもお通しできません」
 自分が処罰される、と彼は言外に続けた。
「困ったね。私もアマルフィ氏に怒られるのだが」
 さて、どこでお互い妥協をするか。それを考えなければいけない。そう呟く。
「……ともかく、今しばらくお待ちください。隊長には連絡を取りましたから」
 彼が来るまではここにいて欲しい。こんがするように彼はそう言う。
「仕方がないね」
 ため息とともにラウは言葉を返す。その視界の隅で、自分と同じ髪の色の少年が、目的のドアをくぐったのがわかった。

 目の前には、今、会いたくなかった面々が並んでいる。
「……今回の件について、説明をしてくれないか?」
 パトリック、とシーゲルが視線を向けてくる。
「何のことかわからないが?」
 即座にこう言い返す。
「では、はっきりと言おう。オーブから抗議が来ている」
 それに、とシーゲルは言葉を重ねた。
「彼らを拉致しても、目的のものは手に入らないぞ」
「……何を知っている?」
 自分の知らないことを、とパトリックは聞き返す。
「詳しいことは、マルキオ師に聞くのだな」
 あの三人が重要な鍵になっていることは否定しない。だが、それだけでは必要なものを手に入れられないのだ。
 シーゲルはそう続ける。
「今までブルーコスモスに悟られないように水面下で交渉を進めてきた。それを無駄にする気か?」
 こう言ってきたのはタッドだ。
「これに関しては、穏健派も強硬派も関係ないわ」
 さらにルイーズまでもが口を挟んでくる。
「今すぐ作戦行動中の兵士に撤退命令を出してくれないか?」
 そうすればギナもなだめられるから、とシーゲルは言ってきた。
「もう遅い」
 それに、パトリックはそう言い返す。
「彼らには作戦を遂行するまで、誰の指示も聞かぬように言ってある。私の命令も同様だ」
 目的を遂行するか、全滅するか。そのどちらかでなければ彼らは止まらない。そう言う者達を集めたのだ。
「パトリック……」
「私は、すぐにでも民衆に希望を与えたかった……レノアが望んだとおりに」
 そのためならば、何を壊してもかまわない。そう決めていたのだ。
 実際、妻の親友夫妻と息子の親友の命を見捨てるようなこともした。それが自分の中で陰りになっていたのかもしれない。
「それが無駄だったというのか、お前たちは」
 いったい、誰がそれを認められるというのか。
「私は、認めない!」
 悪あがきかもしれない。だが、そう呟く以外、パトリックには残されていなかった。


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最遊釈厄伝