空の彼方の虹
102
「いい加減、待つのにもあきたからな」
そう言ってミナは笑う。
「マルキオ様に同行して、あれらを迎えに行ってくる」
ついでに、と彼女は続けた。
「私が動けばあちらがしっぽを出すであろうからな」
それをつかむための手配も終えている。ミナはそう言って視線を移動させた。その先には苦虫を噛み潰したような表情を作っているムウがいた。
「なるほど。これは心強い」
ウズミがそう言ってうなずく。
「キサカも戻ってきている。彼とともに動いてもらおう」
さらに彼は付け加えた。
「わかりました」
ムウが少しだけほっとしたような表情を作ったのをミナは見逃さない。もっとも、その理由も理解できるからあえて何も言わないでおく。
「地球軍の内情についてはお前が一番詳しいからな」
せいぜい有効な情報を集めてこい。ミナはそう言う。
「わかってるって!」
うるさい、と彼は叫び返してくる。
「本当にからかい甲斐があるな、お前は」
キラはともかく他の年少者は今ひとつ性格がよくない。それに比べて、この男はリアクションが大きいから楽しい。もちろん、演技の可能性も否定できないが。
「キラとカガリのためにはその方がいいかもしれん」
くつくつと笑いながらミナは言葉を口にした。
「勝手に言ってくれ」
ムウはそう言って視線をそらす。
「まぁ、せいぜいがんばれ。あちらは何とかしてくる」
この言葉とともに、彼女は視線をウズミへと戻した。
「では、後はお願いします」
特にセイランのことは、と彼女は言う。
「馬鹿娘は必ず連れ戻してくれると嬉しい」
ウズミの言葉にミナはうなずき返す。そして、そのままマントを翻すと体の向きを変えた。
キラ達はまだ無事なのだろうか。
確かめる方法がないことがもどかしい。
そう考えながら、ギルバートは少しでも大使館のそばへと近づこうと歩いていた。
「ギル」
そのときだ。聞き覚えがありすぎる声が耳に届く。
「レイ?」
しかし、何故、彼がここにいるのだろうか。
「ラウの指示で、ギルを待っていました」
きっと来るだろう。彼はそう言っていたのだ。この言葉に、ギルバートは苦笑を浮かべる。
「相変わらず、こちらの行動の先を読んでくれるね、彼は」
だが、ありがたいというのも事実だ。
「それで? 彼は何と?」
ギルバートはそう問いかける。
「大使館へのひみつ通路があるそうです。それを使えと」
ギナ様から指示をされていたらしい。レイはそう続ける。
「あの方も怖いね」
すべて予想していたのか。それとも、とギルバートは呟く。
「キラさんが関わっているからでしょう?」
同じくらい気にかけていると言えばカガリではないか。しかし、彼女はナチュラルだから仕方がないような気がする。
これが自分達やカナードであれば放っておくはずだ。
レイはそう言いきる。
「そうだね」
彼は大切なものとそうではないものと、明確に分けている。そう言うところも怖いのだ。
「それでも、カナード君や君が本当に危ないときは手をさしのべてくれるだろうね」
そう言うところは優しいのかもしれない。
「ともかく、急ごう」
ギルバートのこの言葉に、レイは素直にうなずいて見せた。