空の彼方の虹
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額に張り付いていた髪をかき上げる。
「手応えがない。これでは準備運動ぐらいにしかならぬ」
言葉とともにギナは笑った。その瞬間、目の前にいるザフト兵が無意識に後退する。
「さて、次は誰か?」
さらにこう付け加えたときだ。彼らの前に脇から兵士が転がってきた。
「……こいつら、本当にコーディネイターですか?」
同時にカガリが問いかけの言葉を投げかけてくる。
「オーブ軍にいるコーディネイターよりも手応えがないですよ?」
それは強がりだろう。だが、間違いなく効果はある。
「ナチュラルも、であろう? 我らが抜き打ちで実力を試しに行っているからの」
もちろん、自分達の望むレベルに達していないものは特訓を命じることになる。その言葉にカガリがいやそうな表情を作った。
「どうかしたのか?」
にやりと笑いながら、ギナは問いかける。
「……なんでもありません」
カガリはため息とともに言い返してきた。
「それよりも、まだ、襲ってくるでしょうか」
ザフトは、と彼女は問いかけてくる。
「来るだろうの」
ため息とともにギナは言い返す。
「パトリック・ザラにすれば、これ以上に己の地位を確実にできるものはないだろう」
全く、と吐き捨てる。
「我が今まで、何のために苦手な根回しをしてきたと思っておるのか」
ミナの命令とは言え、話し合いで物事をまとめるなど、自分の性格から一番遠い解決方法だ。
「まぁ、ギルバートが事前に話を通しておいてくれたから楽と言えば楽だったが」
しかし、それを破棄したくなる状況だ。
もっとも、そんなことはできない。
「ギナ様……」
カガリもそれを心配しているのか。不安そうに呼びかけてくる。
「安心せよ。そんなことをしても意味はないからの」
一から話し合いをし直すのも面倒くさい。それよりは、現状を維持した方がいいのではないか。
「ラクス・クラインはおもしろいからな」
彼女がいるならこのままでもいいだろう。ギナは言外にそう付け加える。
「ともかく、馬鹿は徹底的にたたきつぶさないといけないな」
また来たぞ、とギナは呟く。
「しつこいですね」
カガリがそう言ってため息をついた。
「こうなるとわかっていれば、夕べのうちにトラップを仕掛けておくんでした」
大使館内部に、と彼女は続ける。
「カナードさんのえぐいという噂のトラップを間近で見られる絶好の機会だったのに」
このセリフには苦笑しか浮かんでこない。
だが、それもカガリの向上心故だ、と考えればかわいいものではないか。カナードもそう考えるのではないか。
「何。機会はまだあるだろうよ」
そのときでいいではないか。ギナはそう続ける。
「何なら、キラも含めてオーブ軍の根性直しをしてもいいだろうしな」
訓練という名目なら、ウズミも反対しないだろう。
「……キラの前であれこれするのは気が引けますが」
でも、楽しそうだ。カガリはそう言って笑う。
「その前に、こいつらを何とかしないといけないわけですが」
「こちらの被害はないに等しいからの。何とかなるであろう」
ザフトにしても、あまり公にしたくないのだろう。火器を使用してはいない。それはこちらに有利だと言っていいのではないか。
「ラウも来るであろうしな」
彼が来れば確実に現状をひっくり返すことができる。ギナはそう考えていた。