空の彼方の虹

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 警報が耳に届く。おそらく、疑念が現実になったのだろう。
「兄さん……」
 不安を隠せずに、キラがカナードにすがりつく。
「大丈夫だ。まだ、何も言われていないからな」
 ギナから、とカナードは微笑んでみせる。それだけでは不足かと、彼の背中を軽く叩いてやった。
「……うん。でも……」
 自分達ではなく他の者達がけがをしていないだろうか。キラはそう言ってさらにうつむく。
「それこそ大丈夫だ」
 カナードはそう言って微笑む。同時にキラの体を抱きしめる腕に力を込めた。
「あの方は、部下の命をそう簡単に捨てるようなことはしない」
 ミナにしっかりと教育されているから、と彼は付け加える。
「それよりも、お前が連中に捕まる方がまずい」
 何度も言っているが、とカナードは付け加えた。
「それだけでギナ様の動きを封じられるからな」
 ギナの指示がなければ、間違いなくこちらの負けだ。
「カガリがもう少し実戦を経験してくれたら、話は違っただろうが」
 しかし、それを望むのは難しい。自分のような立場であればともかく、彼女はアスハの後継なのだ。そう考えれば、無理はさせられない。
「軍事関係は、サハクの双子がしっかりと掌握しているしな」
 それでも、二人ともカガリも育てようとしている。今だってそうだ。足でな問いになるとわかっていても、ギナは自分のそばで経験を積ませることを選択した。
 もっとも、とカナードは心の中で呟く。
 彼女を自分のストッパーにしようとしていることも否定できない。
 同じ意味で、キラが自分のそばにいるのだ。
「……そうかもしれないけど……」
 でも、とキラは小さな声で付け加える。
「僕がいなくなれば、全部終わるんじゃないの?」
 それが一番被害が少ないような気がする、と彼は続けた。
「それは、どういう意味だ?」
 カナードは怒りで自分の声が低くなったのを自覚する。
「ここから逃げ出せばいいのかなって……でも、ギルさんに迷惑がかかっちゃうかな?」
 それとギナ達に、とキラは首をかしげた。どうやら自分が考えていた最悪の事態ではないことに、カナードは安堵する。
 しかし、心臓に悪い。ともかく、と彼は口を開いた。
「それよりも、下手に逃げ出せばザフトが喜んで追いかけてくるぞ」
 逃げ切れる自信はもちろんある。
 それでも厄介なことは否定できない。
「第一、カガリがへそを曲げる」
 いいのか? と付け加えた。
「……やっぱり、まずい?」
「なだめるのに時間がかかるだろう?」
 それで家出をされたら、誰が迎えに行くというのか。
「それに……ここで逃げ出しても終わらないだろうしな」
 なら、徹底的に危険の芽は摘み取ってしまった方がいい。ギナもそう考えているのだろう。
「大丈夫だ。ギナ様にはきっと、勝算を持っている」
 自分達は彼の指示に従えばいい。カナードはそう言って微笑む。
「大丈夫だ。お前を連中に渡すつもりはないし、俺も死ぬ予定はさらさらない。何があっても、お前を一人にしないから」
 キラが恐れているのはそれだ。
 だから、自分はそんな彼を不安にさせないように強くなった。
 それでも、まだ足りないのだろうか。
 こんなことを考えてしまう。
「それに無事に帰らないと、ミナ様にたたられるぞ?」
 はっきり言って、一番それが怖い。ため息とともにカナードは言う。
「お前はともかく、俺たちは入院期間が延びるだろうな」
 その間にも厄介事が押しつけられるに決まっている。そして、ミナは一人でキラを可愛がるつもりだろう。
「……それは、怖いかも」
 ため息とともにキラもうなずく。
「だろう? だから、ここでおとなしくしていろ」
 あるいは、プラントのそばまでミナ自身が迎えに来るかもしれない。どちらにしろ、ギナには連絡は入るはずだ。
 彼の指示があるまでは動かない方がいい。その言葉にキラはようやく首を縦に振ってくれた。


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最遊釈厄伝