空の彼方の虹

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 目をすがめると、時計を確認する。
「アスランからの連絡は?」
 パトリックはそう問いかけた。
「まだ、ありません」
 即座に言葉が返される。
「何をしているんだ」
 あるいは、拘束されたのか。そうだとするならば、いつまで待っても帰って来ないだろう。
 あるいは、情に流されたか、だ。
「まぁ、いい」
 ため息とともにパトリックは呟く
「あそこを制圧すればいいだけのことだ」
 アスランの処遇はその後で考えればいい。必要なのは、あれを手に入れること。アスランは死ななければいい。ラクスに関しては、どちらでもかまわない。
「ユウキ隊長に状況を開始するように伝えろ」
 そして、と彼は言葉を重ねる。
「クルーゼ隊長には、大至急本部まで来るように、と伝言を」
 彼に動かれてはこちらの作戦が瓦解するかもしれない。
 それに、とパトリックは心の中で付け加える。
「彼を味方に引き込めれば、後のことが楽になる」
 いくら目的のためとはいえ、幼い子供に危害を加えるのは気が進まない。だが、親しくしている相手がこちらにいれば、素直に協力をしてくれるのではないか。そうでなかったとしても、彼の身柄を盾にできるだろう。
「どうやら、まだまだ、非情になりきれんか」
 ブルーコスモスのようには、と呟く。
「もっとも、あれらのように成り下がりたくはないからな」
 まだ、人としての最低限の情は捨てたくない。それでも、とパトリックはため息をついた。
「私は同胞コーディネイターの未来を守らなければいけないのだ」
 そのためには、多少のことには目をつぶるしかない。
 例え、人々に何と言われようと自分の行動は正しいといずれ理解されるはずだ。
 パトリックは自分に言い聞かせるように心の中でそう呟いていた。

 まさか、こんなに堂々と行動を起こすとは思わなかった。そう考えながら、ギルバートは足早に出口へと向かう。
「デュランダル君」
 だが、その途中で声をかけられてしまった。しかも、無視することができない相手だ。
「何かご用でしょうか、クライン議長」
 いや、彼だけではない。一歩下がったとことにタッド・エルスマンとユーリ・アマルフィの姿も確認できる。
「……オーブ大使館の周囲で何か起きているそうだが?」
「はい」
 隠していても別ルートから話が伝わるだろう。そう判断をして、素直に肯定をする。
「あちらに連絡も取れませんので、直接行ってみようかと」
 ギナとは親しくしているから、とギルバートは続けた。
「ザフトが動いているという話も聞いているが」
 タッドがそう問いかけてくる。
「オーブ大使館周辺を封鎖しているそうです」
 だから、あちらから帰れずに困っているものがいるのだ。そう続けた。
「それだけならばいいのですが、ギナ様が何かあり次第、反撃する気満々なのではないかと、そちらの方が心配です。オーブとの関係は絶ちたくないので」
 その理由はシーゲルとタッドは知っているはずだ。あるいは、ユーリも何かを聞いているかもしれない。
「問題は、目的があれのデーターを強引に奪うことだったときです」
 さらにそう付け加えた。
「……せっかく、ギナ様に条件付きで協力していただける約束を取り付けたのが無駄になりそうです」
 彼らに何かあった場合、無条件でオーブはこちらのとの約束を破棄するだろう。
「とりあえず、これを君に渡しておこう」
 言葉とともにシーゲルが一枚の書類を差し出して来る。
「議長?」
「私とタッド、ユーリ、それにこの場にはいないがルイーズとアイリーン連名の命令書だよ。これを持ってオーブ大使館に行けば、君に独断専行にはならないはずだ」
 後のことはギルバートの判断に任せる。シーゲルはそう付け加えた。
「かしこまりました」
 これを渡すために呼び止めたのだろう。そう判断をしてギルバートは素直に頭を下げる。
「私たちはこれからパトリックのところに行くつもりだよ」
 シーゲルは首を横に振ってみせるとこう言った。
「願いは同じはずなのに、どこでずれてしまったのだろうね」
「議長……」
「すまないね。時間がないときにくだらないことを聞かせて」
 急ぎたまえ、といつもの口調でシーゲルは口にする。それにギルバートは素直に従うことにした。


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最遊釈厄伝