空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  98  



「それで、これからどうするんだ?」
 アスランはまだ、納得していない。与えられた情報を整理するだけで精一杯なのではないか。自分だって、そうだったから。
 きっと、もっと時間が欲しい、と言い出すだろう。
 しかし、こちらも時間がないのだ。悩むだけなら、他のところでやれ、と思う。
「決められぬのであれば、邪魔にならぬところにおれ。おそらく、すぐにでもお前の父が動くだろうな」
「そんなはずはない」
 ギナの言葉を、アスランがすぐに否定してくる。
「自分とラクスがここにいる。いくら、父上でも、そんな状況で攻撃命令を出すはずがない!」
 さらに彼はこう続けた。
「どうだかの」
 少しだけ気の毒そうな響きとともにギナは言い返す。
「あ奴は、お主とラクス・クラインの命があればいい、と考えておるはずだ。お主達の気持ちなど、気にしておらぬ」
 そう言う男だ、と彼は言い切った。
「信じられぬと言うなら、黙ってみておるのだな」
 これ以上はつきあっていられない。ギナがそう考えていることが声音から伝わってくる。
「そうですわね。わたくし達はお邪魔にならないようにしていることが一番でしょう」
 さらにラクスが口を挟んできた。
「わたくし達は、あくまでも部外者ですから」
 違うのか? と彼女は言外にアスランに問いかけている。
「だが、納得できない以上、反論するのは当然の権利では?」
 本当にこいつは馬鹿だ。カガリは心の中でそう毒づく。
「いい加減にしろよ? 元々お前は、不法侵入者だ。拘束されずにいることを感謝して、こっちの邪魔はするな!」
 カガリはアスランをにらみつけながら言葉を口にした。
「それとも、拘束されたいか?」
 彼女はそう続ける。
「ごめんだね」
 即座にアスランはそう言い返してきた。
「やっぱり、拘束しましょう!」
 こいつ、とカガリはギナに訴える。どうあがいても、自分がやりたいと考えていることを優先させるつもりだ。その結果、こちらに不利な状況を作り出したとしても、と心の中で吐き捨てる。
「大丈夫ですわ、カガリ。わたくしが邪魔をさせません」
 ラクスがそう言って微笑む。
「……わかった」
 彼女がそう言うのであれば大丈夫なのだろう。カガリはそう判断をする。
「放っておけ。いざとなれば何とでもする故」
 ギナもそう言う。
「それよりも優先すべきことがあるであろう?」
 今は、と彼は続けた。
「キラ達の安全の確保はもちろん、部下達の命も失わせないことが指揮官としては重要なことだ。覚えておくがよい」
 言葉とともに彼は歩き出す。
「すまぬが、入り口はロックするぞ」
 ふっと思い出したというように彼は立ち止まるとそう言った。
「その方が言い訳も立つであろう?」
 にやり、と彼は笑う。
「お心遣い、感謝しますわ」
 ラクスがそう言い返す。それを確認してギナは部屋を出た。もちろん、カガリも後を追いかける。
「さて」
 端末を使って部屋をロックしながらギナは口を開いた。
「お前は保安室で外の状況を確認しておれ。何かあれば、すぐに連絡をよこすがよい」
「はい」
「それと……ラウにも連絡をしておけ」
 彼にも動いてもらわなければいけない。言外に、彼はそう続ける。
「わかりました」
 確かに、自分達だけでは人員不足だ。彼を呼び出すしかないか。しかし、間に合うのだろうか。
 だが、そう考えていることを他のものに知られるわけにはいかない。
 カガリは自分を戒めるように拳を握りしめた。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝