空の彼方の虹
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「……とりあえず、二人の《キラ》に関しては、元になる遺伝子は同一よ。コーディネイターであれば珍しくも何ともないがな」
見た目がそっくりなのはそういうことだ。ギナはそう言う。
「年齢差があるのは、母体に戻された時期の差よ」
そして、彼らの生みの母はカリダとも別人だ。もっとも、姉妹ではあるがと彼は続ける。
「お前も知っているカリダの方が末の妹だな。あのキラの母は二番目になる姉の方は卵子に異常があってな。コーディネイトしたとしても子供が生まれる可能性が低かったからの」
だから、残っていた長女の受精卵で子供を産んだ。
それが、今、ここにいる《キラ》なのだ。ギナはそう続ける。
「そっくりなのはそう言うわけだな」
つまり、本来であれば双子として生まれるはずの存在だったから、と言うことなのか。
「……カナードは……」
キラの兄だという彼は、と思わず問いかけてしまう。
「あれの卵子提供者は我らと同じ人物だな」
さらりとギナはとんでもないセリフを口にしてくれる。
「もっとも、サハクの養子に入ったのは我らだけだからの。表向きにはサハクの後継ではない」
しかし、サハクの双子に万が一のことがあれば、彼が後を継ぐことになるのだろう。
「カナードがいるなら、必要なかったのでは?」
「本当にお馬鹿ですわね、あなたは」
あきれたようにラクスが口を開く。
「あの方々のお母様がもう一人、お生みになりたかっただけではありませんの?」
カナードだけではかわいそうだと思ったのではないか。彼女はそう続けた。
「何かを予感されていたのかもしれませんし」
少しだけ表情を曇らせて、こう言う。
「宇宙で暮らすものは、皆、覚悟を抱いてい暮らしておるがな」
プラントにすんでいるものはともかく、そうでない者達は。ギナもラクスの言葉に同意をしてみせる。
「軍人だったのですか?」
確かに、自分も覚悟はしているか。そう思いながらアスランは問いかけた。
「そうであればよかったのだがの」
しかし、それをギナはあっさりと否定してくれる。
「お二人とも、プラント建設の技師だったんだよ」
カガリがため息とともにそう言った。
「建設中の事故で、とお聞きしている」
彼女はさらに言葉を重ねた。
「カナードはともかく、キラはまだまだ、保護者が必要な年齢だったからな。我らが引き取ったのよ」
ミナがめちゃくちゃ溺愛している、とギナが笑う。
「……ギナ様もミナ様のことをおっしゃれないのでは?」
「よいではないか。あの子達やお前以外の子供がかわいいと思えたことはないのだし」
もう一人の《キラ》を除いて、とギナは言い返す。
「本当は、ヤマト家で二人を引き取るという話しもあったのだがな。いろいろと問題があった故」
それが正解だった。今、改めて確信した。言葉をとともにギナはアスランをにらみつける。
「お前の父親が、あちらのキラの身柄をよこせ、と騒いでくれたしな」
彼が受け継いだデーターとともに、とカガリは吐き捨てるように口にした。
「そのくせ、あの一家に危険が迫っているという情報をつかんでいたくせに連絡をよこさなかった」
そのせいで、彼らはブルーコスモスに襲撃されたのだ。カガリが叫んだその言葉の意味がすぐには理解できない。
「誰が、何だって?」
思わずそう聞き返してしまう。
「パトリック・ザラが、ヤマト家襲撃の情報をつかんでいながら、誰にも漏らさなかった。そのせいで、こちらは救援が間に合わなかったと言ったのだよ」
ラウがしっかりと確認している。今度はギナがそう言う。
「父上が? いつ……」
「お前がプラントについてすぐ、だ」
その言葉に、アスランは記憶の中を探る。そうすれば、すぐにレノアとパトリックがけんかをしている姿が思い出された。
「……あのときか?」
何が原因だったのかはわからない。しかし、キラ達のことをレノアが知ったのだとすれば納得できる。
「お前の責任じゃない。でも、やっぱり許せない」
カガリはそう言う。
「それ以上に、お前の父親が許せない。キラ達は、お前の父親のための道具じゃない!」
彼らの両親の遺産も、だ。
「……せっかく、今までブルーコスモスから隠していたのにな」
彼らの実の両親も、そしてキラ達も、ブルーコスモスによって殺された。その上、最後に残ったあの二人まで奪われることになったら耐えられない。
「だから、相手が誰であろうと、そんなことをさせない」
それ以前に、彼らを傷つけさせるようなことはさせない。カガリはそう言いきる。
そこまで思える人間がいることがうらやましい。アスランはそう感じていた。