空の彼方の虹
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「アスランが、オーブ大使館に乗り込んだ?」
ラウは思わずそう聞き返す。
『こちらの情報ではね』
ギルバートが即座にそう言い返してきた。
『ザラ国防委員長の特命だそうだよ』
さらに彼はこう続ける。
「そうか」
やはり、今回のことは彼の独断か。ラウはそう判断をする。
「さて、どうしたものかね」
パトリックが背後にいる以上、ザフト内でうかつな行動を取ることはできないだろう。
「ともかく、もうしばらく静観するしかないだろうね」
表向きは、と心の中だけで付け加える。
『それしかないだろうね』
ギルバートもすぐに同意をして見せた。
『私たちがうかつに動くと、ギナ様の邪魔をしかねない』
彼のことだ。最悪の状況を考えてすでに準備を整えているような気がする。ギルバートはそう続ける。
「否定できないな」
足繁く大使館に通っていたのであれば、とラウもうなずく。
「とりあえず、回線はまだつながっているからね。あちらから連絡があってから動いても遅くないだろう」
だから、うかつな行動を取るな、とギルバートにも釘を刺す。もちろん、自分にも、だ。
『わかってるよ』
お互いにね、とギルバートは言い返して来る。それに「そうだな」と言い返すしかできなかった。
さすがに警戒は解かれないか。アスランは案内された部屋の内部を見てため息をつく。
「……こいつなんてたたき出せばいいのに」
まだあきらめきれないのか。カガリがこう呟いているのが耳に届く。
「それでは、また、押しかけてくるであろう? それよりも、ここできっちりとたたきつぶしておいた方がよかろう」
ギナはそう言って笑う。
「その後でそれがどうなろうと、我らに関わってこなければかまわん」
その言葉の意味が、アスランにはわからない。
「不服ならば、別室で控えているがいい」
ギナにこう言われて、カガリは渋々と言った様子で口をつぐんだ。
「大丈夫ですわ、カガリ。だから、わたくしも同席させていただいているのですよ?」
代わりにラクスがこう言ってくる。
「元はと言えば、ご自分の行動が元凶だとわかっているのですか?」
アスランはこう問いかける。
「それ以前に、あなたがキラ君を追いかけ回して怖がらせたのではありませんか?」
そのせいでことが大きくなったとは思わないのか。彼女は即座に反論をしてきた。
「……真実を教えてもらっておりませんでしたから」
それ以外に理由はない。アスランはそう言いきった。
「仕方がないの」
ギナはそう言ってため息をつく。
「納得できぬとは思うがな、お前の性格であれば」
それでも、説明しなければならないだろう。彼はそう言葉を重ねた。
「一部、我らの推測もあるがの。全く根拠のない話ではない」
そう前置きすると同時にギナはゆっくりと口を開く。
アスランは、一言も聞き逃すまいと彼の言葉に意識を集中した。