空の彼方の虹

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 やはり、と言っていいのだろうか。侵入してきたのはアスランだった。
「人のところの大使館に、アポもなく乗り込んでくるとは……ザフトの教育はどうなっておるのだ?」
 あきれたようにギナが口にする。
「後でラウに確認せねばな」
「……ラウさんの問題ではなく、アスラン個人の問題だと思いますけど?」
 ギナの言葉に、カガリはそう言い返す。
「こいつは徹底的に馬鹿ですから」
「誰がだ!」
 彼女がさらに付け加えた言葉に、アスランがすぐに文句を言ってくる。
「あなたに決まっているでしょう?」
 だが、それに反論をしたのはカガリではない。ラクスだった。
「ザフトの軍服を着て強引に他国の大使館人侵入してくる。敵対行為と取られてもおかしくありませんわね」
 違いますか? と彼女はさらに言葉を重ねた。
「あなたは、ご自分の行動でプラントとオーブの関係に亀裂を入れるおつもりですの?」
 相変わらず正論で相手を追い詰めるのがうまい。ラクスの言葉を聞いてカガリはそう心の中で呟く。
「それならば、あなたの行動はどうなのですか?」
 それに、アスランはこう言い返してくる。
「この周囲は、ザフトが封鎖していたはずですが?」
 それを強引に突破したのは誰か。アスランはそう言うと同時にラクスをにらみつける。
「納得できる理由を提示いただければ、従いましたわ」
 しかし、彼らにはそれができなかった。だから、自分は最初の予定通りの行動を取ったのだ。そう続ける。
「これが、プラント国外であれば、理由は伺いませんでしたけど」
 軍事的に必要だと言われれば、とラクスは言った。
「でも、ここはプラント国内ですわ」
 内密に行う作戦があるとは思えない。そう続ける。
「それとも、それについて説明していただけますの?」
 かわいらしいと言える仕草でラクスは首をかしげた。
「残念ですが、自分も詳しいことは何も聞いておりません。自分に命じられたのはあなたをここから連れ出すことですから」
 アスランはそう言い返す。
「もっとも、納得していないのは私も同じですが」
 こう言いながら、彼はラクスではなく、カガリを見つめてくる。
「どうして、二人のキラがあそこまでそっくりなのか。その理由を聞きたい」
 血縁があると言うだけでは納得ができない。彼はさらに言葉を重ねた。
 本当に執念深い。カガリはあきれたように彼の顔を見つめる。
「……それを聞いてどうするのか」
 ため息とともにギナが聞き返した。
「いくらお主が否定しようと、ヤマト家のキラはすでにこの世には存在しておらん。あの子は別の存在よ」
 それを受け入れられるのか。彼はさらに言葉を重ねた。
「……納得できたなら」
 アスランはこう口にする。
「今まで、何を言われても納得しなかったくせに」
 カガリがそう呟く。
「当たり前だろう! 俺は、あいつが死んだところを見ていないんだからな」
 それで納得ができる人間がいるか、と彼は言い返して来る。
「宇宙にいれば、よくあることではないのか?」
 遺体を眼にできないのは、とギナは続けた。
「それが戦場でも、の」
 むしろ、普通に弔われる方が珍しいのではないか。
「残念だが、我らもあの子の遺体は目にしておらぬ。あの子の両親もな」
 体の一部が見つかっただけだ。そうギナは言う。
「それでも、お前は我らの話を受け入れられるのか?」
 無理であろう、と彼は続ける。
「そんなことは、聞いてみないとわかりません」
 本当に、こいつは馬鹿だ。アスランの返事を聞いて、カガリは改めてその思いを強くした。


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最遊釈厄伝