空の彼方の虹
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どうやら、この回線までは連中も遮断できていないようだ。その事実に、レイはほっと安堵のため息をつく。
「ラウ。つながりました」
そのまま、背後にいる彼に呼びかける。
「ギナ様かカガリを呼び出してくれるかね?」
すぐに言葉が返された。
「はい」
そう答えながら、キラに教えてもらった操作をする。
「カナードさんはいいのですか?」
ふっと思いついて、レイはこう問いかけた。
「カナードはキラとともに避難しているだろうからな。捕まらない可能性の方が大きいだろう」
ラウはそう言葉を返してくる。
「それに、何かあればギナ様が指示を出されるだろうからね」
大使館の最高責任者は、今はギナだ。そう考えれば、彼本人かそれに近いものに連絡を取った方がいい。
何よりも、とラウは続ける。
「あちらにあの子がいるという言質を与えないことが最優先だろう」
カナードと話していれば無意識のうちに話題に出してしまうかもしれない。だが、ギナならばその心配は少ないだろう。万が一の時も、カガリのこととごまかしてくれるはずだ。
「……わかりました」
自分はまだ、そこまで考えが及ばなかった。それだけ未熟だと言うことなのだろうか。
その事実が悔しい、と思う。
「こればかりは、経験が必要なのだよ」
焦る必要はない。レイの気持ちを読み取ったかのようにラウが言葉を口にした。
「君は、キラと一緒に成長していけばいい」
それができるのはレイだけだ。
ラウはそう言って微笑む。
「私が覚えたことは、すべてお前に教える。だから、今は焦らなくていい」
それよりも、今はこの危機を何とかする方が先決だ。そう言われてはうなずく以外、レイには残されたがなかった。
「君の方が長生きをするんだ。その分、キラのそばに長くいられるだろう?」
その言葉の裏に隠された意味がわかるのは、自分だけだろう。
「どうでしょうね。ギルがあれこれがんばっていますし……そうでなかったとしても、何があるかわからないでしょう?」
事故で死ぬかもしれないし、とレイは心の中だけで付け加える。
そうでなかったとしても、ラウにもギルバートにも長生きをして欲しい。もちろん、キラに関しては言うまでもない。
「レイ?」
何が言いたいのか。ラウが言外にそう問いかけてくる。
「回線がつながりました」
だが、それよりも先に、大使館の方へ連絡がついたようだ。?
「変わりなさい」
ため息とともにラウがこう言ってくる。その言葉に、レイは素直に席を彼に譲った。
『ちょうどよかった。こちらから連絡しようと思っていたところよ』
ギナはいつもの口調でこう言ってくる。
『とりあえず、こちらは無事だから、安心するがいい』
さらに彼はこう続けた。
「そうですか」
ほっとしたようにラウが言い返す。
『もっとも、油断はできぬようだがな』
「と、言いますと?」
『ここの周囲の道路はすべて閉鎖されておるそうだ。ザフトによってのもっとも、それを無視して訪問してきた強者もいるが』
ほめているのかあきれているのかわからない声音でギナがそう告げた。
その瞬間、いやなものを感じたのはレイだけではないだろう。
「どなたですか?」
同じ気持ちなのか。こめかみを押さえながら、ラウが問いかけている。
『ラクス・クラインよ』
やっぱり、と思ってはいけないのだろうか。
「……あの方は……」
深いため息とともにラウはそう言葉を吐き出した。