空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  90  



 廊下に出るとすぐに、玄関の方から騒ぎが伝わってくる。
「……もう来たのか?」
 予想よりも早いの、とギナは呟く。
「カナード。キラと地下へ行っておれ」
 さらに彼はこう命じた。
「はい」
 言葉とともに彼はキラを抱き上げる。
「カガリ、無理はしないでね?」
 カナードの腕の中からキラがこう呼びかけてきた。
「……わかってる」
 憮然とした表情でカガリは言い返す。それでもうなずいてみせるあたり、キラには心配かけまいとしてのことか。
「何。カガリのことは任せておくがよい。いざとなれば、抱えて逃げればよいだけよ」
 カガリぐらいならば、肩に抱えてもさほど苦ではない。ギナはそう言って笑う。
「……ギナ様も、けがはしないでくださいね?」
 キラはすぐにそう言い返してくる。
「キラはかわいいの」
 ギナは眼を細めるとそう言った。
「安心せよ。ここにいる者達が私に傷つけられるはずがなかろう。カガリが馬鹿をしなければ、の話だが」
「……私だって、そこまで馬鹿ではないつもりです!」
 即座にカガリがこう言い返してくる。
「だ、そうだ。安心しておれ」
 それよりも、早く安全な場所に避難しろ。そう続ける。
「行くぞ、キラ」
 カナードが彼に声をかけると同時に歩き出した。後は任せるしかない。
「カナードであれば、意地でもキラに傷ひとつつけさせまいよ」
 キラが悲しむという理由で、自分がけがをすることもないだろう。そう考えれば、やはり心配なのはカガリと言うことになる。
「お前は、私の指示にきちんと従うように」
 勝手に動くな、と言外に続けた。
「わかっています」
 ため息とともにカガリは言い返して来る。
「私だって、キラを悲しませるのは不本意です」
 だから、とかのじょはさらに言葉を重ねた。
「わかっておる」
 苦笑とともにギナはそう言い返す。
「お前も、いつもそう素直ならばかわいいものを」
 しかし、これは余計な一言だったかもしれない。ギナはすぐにそう考えてしまう。
「文句はセイランに言ってください」
 カガリがそうかみついてくる。
「無事に帰り着いたらの」
 今回の鬱憤をすべてユウナにでもぶつけてやろう。ギナは心の中でそう呟く。
「そのためには、この危機を抜けださんとな」
 とりあえず、入り口に誰が来ているのか。それを確認しなければいけない。
 敵であれば、ここまで騒ぎにならないような気もする。
 しかし、この状況で誰がここに訪ねてくるというのだろうか。
 そう考えている間に、玄関が見える場所までたどり着く。
「……ラクス?」
 そこにいた人影を見て、カガリがこう言った。いったい何故、と彼女は続けている。
「よかったですわ、カガリ」
 そんなカガリに向かってラクスが微笑みを向けて来た。
「約束をしておりましたでしょう?」
 ついでに周囲の様子を見てきた、と彼女は続ける。
「……話を聞かせていただこうか、ラクス・クライン」
 いろいろと、とギナは口にしながらも頭痛を覚えていた。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝