空の彼方の虹
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廊下に出るとすぐに、玄関の方から騒ぎが伝わってくる。
「……もう来たのか?」
予想よりも早いの、とギナは呟く。
「カナード。キラと地下へ行っておれ」
さらに彼はこう命じた。
「はい」
言葉とともに彼はキラを抱き上げる。
「カガリ、無理はしないでね?」
カナードの腕の中からキラがこう呼びかけてきた。
「……わかってる」
憮然とした表情でカガリは言い返す。それでもうなずいてみせるあたり、キラには心配かけまいとしてのことか。
「何。カガリのことは任せておくがよい。いざとなれば、抱えて逃げればよいだけよ」
カガリぐらいならば、肩に抱えてもさほど苦ではない。ギナはそう言って笑う。
「……ギナ様も、けがはしないでくださいね?」
キラはすぐにそう言い返してくる。
「キラはかわいいの」
ギナは眼を細めるとそう言った。
「安心せよ。ここにいる者達が私に傷つけられるはずがなかろう。カガリが馬鹿をしなければ、の話だが」
「……私だって、そこまで馬鹿ではないつもりです!」
即座にカガリがこう言い返してくる。
「だ、そうだ。安心しておれ」
それよりも、早く安全な場所に避難しろ。そう続ける。
「行くぞ、キラ」
カナードが彼に声をかけると同時に歩き出した。後は任せるしかない。
「カナードであれば、意地でもキラに傷ひとつつけさせまいよ」
キラが悲しむという理由で、自分がけがをすることもないだろう。そう考えれば、やはり心配なのはカガリと言うことになる。
「お前は、私の指示にきちんと従うように」
勝手に動くな、と言外に続けた。
「わかっています」
ため息とともにカガリは言い返して来る。
「私だって、キラを悲しませるのは不本意です」
だから、とかのじょはさらに言葉を重ねた。
「わかっておる」
苦笑とともにギナはそう言い返す。
「お前も、いつもそう素直ならばかわいいものを」
しかし、これは余計な一言だったかもしれない。ギナはすぐにそう考えてしまう。
「文句はセイランに言ってください」
カガリがそうかみついてくる。
「無事に帰り着いたらの」
今回の鬱憤をすべてユウナにでもぶつけてやろう。ギナは心の中でそう呟く。
「そのためには、この危機を抜けださんとな」
とりあえず、入り口に誰が来ているのか。それを確認しなければいけない。
敵であれば、ここまで騒ぎにならないような気もする。
しかし、この状況で誰がここに訪ねてくるというのだろうか。
そう考えている間に、玄関が見える場所までたどり着く。
「……ラクス?」
そこにいた人影を見て、カガリがこう言った。いったい何故、と彼女は続けている。
「よかったですわ、カガリ」
そんなカガリに向かってラクスが微笑みを向けて来た。
「約束をしておりましたでしょう?」
ついでに周囲の様子を見てきた、と彼女は続ける。
「……話を聞かせていただこうか、ラクス・クライン」
いろいろと、とギナは口にしながらも頭痛を覚えていた。