空の彼方の虹
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さすがに、市民の中にも何かを気づいているものがいるはずだ。それをどうごまかしているのだろうか。
「こうなれば、わたくしが自分で行動をするしかありませんわね」
ラクスは端末をしまいながら小さな声でそう呟く。
「ピンクちゃん。準備はよろしいですか?」
さらに、膝の上に落ち着いているピンクハロへと問いかける。それにピンクハロは瞳を光らせることで答えてくれた。
「さて……それでは、予定通り、オーブ大使館へと向かうことにしましょう」
にこやかな声音でラクスはそう言う。
「ラクス様」
「心配いりません。責任はわたくしが取ります」
事前に許可を出していたのはあちらだ。だから、と彼女は続けた。
「わたくし達はスケジュールに沿って動くだけです」
誰であろうと、文句は言わせない。毅然とした表情でラクスは言い切る。
「ラクス・クラインは自分の信じる道を進みます」
まっすぐに前を見つめながら言葉を口にした。
その言葉に、前に座っていた運転手は静かにうなずいてみせる。
「マネージャー氏はまだ戻ってきませんが?」
それでも確認をしないわけにはいかないのだろう。こう問いかけてきた。
「むしろ、その方がよろしいでしょう?」
彼にまでその覚悟を求めるのは酷ではないか。ラクスはそう思う。
「ラクス様がそうおっしゃるなら」
運転手はそう言ってうなずく。
「多少乱暴な運転をします。しっかりと捕まっていてください」
「お任せしますわ」
ラクスはそう言って微笑んだ。
ギナが戻ってくる。しかし、彼が身にまとっている空気は険しいものだ。
「ギナ様?」
どうかしたのか、とキラは問いかける。
「何でもない、と言いたいところだがな」
ここで隠しても仕方がない。彼はそう続けた。
「外との連絡が遮断されておる。何かの不具合であればよいのだがな」
だが、そうではないだろう。ギナはそう考えているのではないか。
「せめて、ラウとぐらいは情報を交換したいのだがな」
この言葉に、キラは少しだけ首をかしげる。
「ここにはあのシステムはないのですか?」
そして、こう問いかけた。
「あのシステム?」
何のことだ、とカガリは聞いてくる。と言うことは彼女は知らないのだろう。
「本土にいるものは知らぬか。宇宙にいる我ら専用のものだからの」
キラに作ってもらった、とギナは言い返す。
「ラウさんには渡してありますよ。後、レイにも」
こちらに来てから、とキラは続ける。
「なるほど。それならば何とかなるかもしれぬな」
ギナはそう言ってうなずく。
「お前はカナードから離れるでないぞ? カガリは一緒に来るがよい」
いろいろと学ぶことも多いだろう。ギナはそう続けた。
「わかりました」
堅い口調でカガリは言い返す。
「カナードもよいな? いざとなれば、地下へ向かえ」
「わかっています。とりあえず、俺とキラの安全を優先します」
カナードは即座にこう言った。
「兄さん?」
それは、とキラは思う。しかし、だ。
「それでよい。お前たちが自由に動けることが大切だからの」
ギナはそう言って微笑む。
「お前たちは、だから自分達のことを優先せよ」
そう言われては仕方がない。キラは渋々うなずいて見せた。