空の彼方の虹
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端末をしまうと、ラウはすぐにハンドルを握った。
「……ラウ……」
不安そうにレイが呼びかけてくる。
「とりあえず、一度戻ろう。あそこからであれば、軍のマザーにアクセスもできるからね」
そこからであれば何とでもなるだろう。彼はそう言って笑った。
「最悪、ザフトとは縁を切ることになるかもしれないが……それよりもキラの方が大切だからね」
自分には、とラウは言う。
「俺だって同じです」
即座にレイが言い返して来る。
「わかっているよ。きっとギルも同じことを言うだろうね」
しかし、とラウは続けた。
「できれば、それは最後の手段にしたいね」
これからのことを考えれば、とため息混じりにはき出す。
「問題なのは、ザラ委員長とその周囲の者達だけだ」
いや、正確に言えばパトリック・ザラとアスランだけだと言っていい。他の者達はきちんと説明すれば理解してもらえるはずだ。
「どちらにしろ、今はキラ達の安全確保が最優先だ」
彼らさえ無事ならば、今はそれで十分。後のことはギナ達が何とかするだろう。
「……俺は、外で様子を確認していましょうか?」
少し離れた場所からであれば、何かあってもすぐに気づけるのではないか。レイがこう問いかけてくる。
「今回はやめておいた方がいい。君の顔も、当然チェック済みだろうからね」
万が一、人質に取られてはいけない。言外にそう続ける。
「……もっと、強くならないとだめなんですね」
ため息とともに彼はそう言い返してきた。
「今回は想定外のことだからね。そんなに自分を卑下する必要はないよ」
ラウは慰めるようにこう言う。
「君はまだまだ子供だからね」
だからこそ、キラが安心していられるのだろうが。そう続ける。
「ともかく、今回は私たちに任せておきなさい」
もう少し余裕があるときならば、いろいろと経験を積ませてやれたのかもしれない。だが、今回は残念だが、レイの面倒を見ていられる余裕がラウにはなかった。
「はい」
それがわかっているのだろう。彼も小さくうなずいてみせる。
「さて……無事に終わればいいが……」
国交断絶などせずに、とラウは呟いていた。
「何かありましたの?」
言葉とともにラクスは首をかしげてみせる。
「わかりません。ザフトが道を封鎖しているようです」
即座に運転手が言い返していた。
「あら……それは困りましたわ。約束に遅れてしまいます」
今から別の道を通っては、とラクスは言った。
「今、確認してきます」
言葉とともにマネージャーが助手席から下りる。そのまま、検問を行っているザフト兵の元へと駆け寄っていった。
「ここがオーブ大使館への最短ルートでしたわね」
その姿を見送りながら、ラクスはこう呟く。
「はい」
運転手がそう言葉を返してきた。
だとするならば、目的はそちらなのだろうか。
「カガリとカナード様。それにギナ様がいらっしゃいますわね。だとするならば、目的はあれでしょうか」
カガリが教えてくれたあの話。それは確かに自分達にとって必要なものだ。だからこそ、父は自分に彼らとの話し合うことを頼んだのだろう。
ひょっとしたら、その情報が漏れたのだろうか。
そう考えると同時に、ラクスはピンクハロを呼び寄せる。
「ピンクちゃん。デュランダル様に連絡を取ってくださいな」
彼ならば何か事情を知っているだろう。知らなくても、現状を教えれば、きっと、カガリに伝わるのではないか。
「困ったことにならなければいいのですけど」
いやな予感がする。ラクスは小さなため息とともにそう呟いていた。