空の彼方の虹

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 軍部の方でなにやら動きがある。
 問題なのは、それが何のための動きなのか、と言うことだ。
「何かあったのかな?」
 さりげない口調でギルバートは同僚に問いかける。
「さぁ……何も報告は来ていないが」
 調べてみるか? と彼は言い返してきた。
「頼んでかまわないかな?」
 自分が下手に動けば気づかれる可能性がある。だから、と思いながらギルバートは口にする。
「かまわないよ、そのくらいなら」
 自分も興味があるから、と彼は笑う。
「国内でのことだから、余計にね」
 そういえば、彼の担当は国内の治安関係だったか。ならば、誰かに文句を言われることはない。
「確かに。せっかく落ち着いている国内情勢を悪化させるようなことにならなければいいが」
 もし、目的が彼らならばそうなりかねない。心の中でギルバートはそう呟く。
「そういえば、君はクルーゼ隊長と親しかったね。ちょっと聞いてみてくれないか?」
 彼ならば、何かを知っているかもしれない。逆にこう問いかけられる。
「あぁ、その可能性はあるね」
 知らなくても、彼ならば聞き出すことが可能だろうか。
「では、ちょっと失礼をして連絡を取らせてもらおう」
 言葉とともにギルバートは腰を浮かせた。
「ここでもかまわないが?」
「……自宅のあれこれを人前で話せるほど、神経が太くないのでね」
 君ののろけ話と違って、と苦笑とともに付け加える。
「そんなにのろけていたかな?」
 彼は初めて気づいたというように問いかけてきた。
「新婚のうちはそんなものらしいがね」
 自分は経験ないから一般論だが、とギルバートは笑う。
「……気をつけるよ」
 確かに、現実として突きつけられるとこれ以上恥ずかしいことはないね。彼は手で顔を覆いながらそう呟いた。
「そうだね」
 あまり気にしなくていいが。そういうとギルバートは歩き出す。そして、そのまま、部屋の外に出た。
「さて……予定通りなら、レイと出かけているはずだね」
 うまく連絡を取れればいいのだが。そう思いながら端末を取り出す。
 相手を呼び出すそうさをした。
 そうすれば、すぐに相手からの応答が返ってくる。
『何があったのですか?』
 しかし、言葉を返してきたのはラウではなくレイだ。
「ラウも一緒にいるね?」
 確認の言葉を口にする。
『はい。運転中で手が放せないので、俺が代わりに』
 何かありましたか? とレイが聞き返してきた。
「軍が動いているのだがね。何か話を聞いていないか、と思っただけだよ』
 その言葉にレイが小さく息を呑む。そのまま、隣にいるであろうラウへと問いかけている声が回線越しにも聞こえてきた。
 その反応から判断をして、ラウも知らなかったのだろう。
『手が放せるようになったら、調べて見るそうです』
 今は運転中だから、とレイが告げてくる。
「頼むよ。何かわかり次第、連絡をくれると嬉しいね」
 こちらでも対処が必要になるかもしれないだろう。言外にそう続ける。
『わかりました』
 言葉とともに回線を切られた。
「おやおや」
 困ったものだね、とギルバートは呟く。だが、あちらにはあちらで何か事情があるのだろうと推測をする。
「さて、こちらでもできることはしておかないとね」
 何もしていなかったと文句を言われるのはいやだ。そう呟くと、ギルバートはもう一カ所連絡をするために携帯に視線を落とした。


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最遊釈厄伝