空の彼方の虹

　　81　　

　キラとギナが連れ立って出かけた。
「さて」
　それを確認して、ラウはそう呟く。
「あちらがどう動くか、だな」
　今までの状況から判断して、どうやら、屋敷内に内通者がいるとしか思えない。
　しかし、それはまだ確実とは言えないのだ。
　だから、それを確認するために、危険を承知でキラを大使館へと行かせた。もちろん、ギナが一緒であれば何があっても大丈夫だろうという確信があってのことではある。
「ラウ」
　しかし、レイはまだ不安を消せないらしい。
「大丈夫だ。あちらにつけば、ギナ様だけではなくカナードもカガリもいるからね」
　あの三人がそろっていてキラにけがをさせるようなことはない。
「それに、危険を冒してでも確認しなければいけないこともあるしね」
　いったい誰が、何の目的でキラ達を狙っているのか。
　それがわかれば、こちらとしても対処の取りようがある。そう心の中で呟く。
「ギナ様の堪忍袋の緒が切れる前にね。黒幕をあぶり出さないと怖いことになると思うよ」
　苦笑とともにラウはそう告げた。
「……それに関しては、否定できません」
　何かあったのだろうか。レイはすぐにうなずいてみせる。
「だ体よ。危険を承知で勝負に出なければいけないこともある。誰かを守ろうとするなら、そういう手段を執らなければならないと言うことも覚えておきなさい」
　これからのために、とラウは言った。
「はい」
　レイは素直にうなずいて見せた。
「ともかく、後を追いかけるからね。つきあいなさい」
　何かあったときのために、とラウは言う。
「わかりました」
　その瞬間、彼は嬉しそうな表情を作る。
　ひょっとして、キラと離れるのがいやだったのだろうか。その可能性はあるな、とため息をつく。
「無事に大使館に着いたのを確認したら戻ってくる。いいね？」
　顔を出す予定はない。言外にそう告げて釘を刺しておく。
「……はい」
　次の瞬間、あからさまに不満そうな表情を作る。こんなに彼は表情豊かだっただろうか、とラウの方が驚く。
　自分が任務に出るまえの彼は、どちらかというとあまり表情を動かさない、人形のようなという表現がしっくり来る子供だった。
　この変化はきっと、キラがそばにいたからだろう。
　それはレイにとってよかったのかもしれない。
「下手に我々が入り浸っては、彼らが後々困るからね」
「わかりました」
　キラが困るとなっては妥協せざるを得ないのだろう。渋々とはいえうなずいてみせる。
「キラは今日も帰ってくるのだしね。少しぐらい、カナード達に返してあげなさい」
　冗談めかして付け加えれば、レイは視線を下に向けたままうなずく。
「帰りにキラの好きそうなお菓子を買ってくればいいか」
　そういうと歩き出す。あえてレイを促すような言葉は口にしない。
　しかし、レイは素直についてくる。
　きっと、あれこれと脳裏で考えているのだろう。
　それが表情にでないというのは困ったものだ、と苦笑とともに呟く。だが、それは本人の耳に届いていないだろう。
「後は、あちらがうまくやってくれることを祈ろう」
　誰が、とは言わない。だが、レイにはわかっているはずだ。
「心配いらないと思います」
　あちらは、とレイは言う。
「心配なのは、やっぱり彼らの方ではないでしょうか」
　彼はさらに付け加える。
「だから、心配はいらないと思うよ」
　自分達も追いかけるのだし、とラウはため息をつく。
　本当に妙なところだけ強情になってしまった。だが、それも政庁の言ったんだと受け止めるしかないだろう。ラウはそう考える。
　そうしている間に、エレカの前までたどり着いていた。
「乗りなさい」
　ドアを開けながら呼びかける。それにレイは素直にしたがった。