空の彼方の虹
80
「よいな、キラ」
自分のマントでキラの姿を隠しながらギナが口を開く。
「苦しいかもしれないが、私が許可を出すまで顔を出す出ないぞ?」
見つかるとまずいことになる。その言葉にキラは小さくうなずいて見せた。
「いい子だ」
言葉とともに大きな手がキラの頭に乗せられる。
「あれらもお前と同じくらいいい子ならば楽なのだがな」
そのままギナは深いため息をつく。
「兄さん達が何かしましたか?」
思わずこう言ってしまう。
「何もしておらぬがな……とりあえずは」
もっとも、と彼は低い笑いを漏らす。
「周囲に不機嫌をまき散らしてはおるが」
おかげで、職員達がおびえて仕事にならない。そう言ってギナはため息をつく。キラにはその光景が見えるようだった。
「……兄さんったら……」
きっと、いつもの十割増しぐらいの仏頂面で周囲をにらみつけているのだろう。
「おかげで、こうして内密にお前を連れ出す羽目になったわ」
ギルバート達へのいいわけが面倒だ。彼はそう続ける。
「僕がわがままを言ったことにすれば……」
そうすれば、ギルバートも苦笑で済ませてくれるのではないか。キラはそう続ける。
「あぁ。そこまでお前が気を遣うことはない。悪いのはあの二人だからな」
嫌がらせに、あの二人の前でキラをかまい倒そうか。ギナはそう言って笑った。
「あれらには一番効果的なお仕置きであろう?」
確かに、それは否定できない。
「踏む、それがよいな。私も楽しいし」
結局、そういうことになるのか。キラは小さく苦笑を浮かべるしかない。
「お前の好きなスイーツを用意させよう」
それを一緒に食べればいいか。ギナは楽しそうに言葉を綴る。
「ほどほどにしておいてください。兄さんが切れたら厄介です」
とりあえず、とキラは言う。
「わかっておる。まぁ、あれ一人ならば取り押さえられるな」
カガリの方は、キラを前に置いておけばいい。その言葉はなんなのか。
「何。あの二人が反省をすれば、近づくことを許可するだけよ」
彼はそう言って笑う。
「本当ですか?」
「本当だとも」
嘘は言わない。彼はそう言って笑う。
「……なら、兄さん達もおとなしくしてくれるでしょうか」
キラはそう言って首をかしげる。
「そうあって欲しいものよ」
でなければ、いつまでも反省しないのではないか。彼はそう言う。
「オーブに帰るまではおとなしくしていてもらわねば困るのにの」
さらに彼はこう続ける。
「ギナ様……」
「ミナの許可さえ出れば強硬手段にも出られるがな。今しばらくはおとなしくしておるしかあるまい」
自分も含めて、と彼は言う。
「ラウとギルバートの立場もあるだろうからな。そのくらいは妥協してやろう」
さらに彼はそう続ける。
「そうですね」
キラとしては、そう言い返すしかできなかった。