空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  78  



 妙に屋敷の中が騒がしい。
「また、何かあったのか?」
 ラウはそう言って目をすがめる。だとするならば、自分が何とかすべきなのだろうか。
 そう思いながら、奥へと進んでいく。
 そんな彼の前に、手にブランケットを抱えたメイドが現れた。
「お帰りなさいませ」
 彼の姿に気づいたのだろう。メイドはこう言って頭を下げる。
「何かあったのかね?」
 ラウはそう問いかけた。
「レイ様とキラ様のお姿が見えなかったので、皆で探していただけです。先ほど、温室でお昼寝をされているところを発見いたしましたので、これをお持ちしようかと」
 彼女はそう言って手にしていたブランケットを軽く持ち上げる。
「最近、よくお休みになられていらっしゃらないようで……お昼寝でもお休みになってくださっているのであればよいかと」
 彼女はさらに言葉を重ねる。
「そうか」
 ならば、顔を見るのは後にしておこう。ラウはそう判断をする。
 その間にすることはたくさんあるのだ。
「あの子達が目を覚ましたら連絡をしてくれ」
「かしこまりました」
 ラウの言葉に彼女は頭を下げる。そして、そのまま温室の方へと向かっていった。
「さて……今日ぐらいは書類が追いかけてこなければいいのだが」
 それは難しいだろう。書類というものは、何故か後から追いかけてくるものだ。
「今回はいろいろと想定外のことが起きたしね」
 キラのことも含めて、だ。もちろん、キラのことに関しては何も問題はない。自分の責任において行うべきことだと理解をしている。
 だが、それ以外のことは面倒くさいとしか思えない。
「ミゲルにでも押しつけてくればよかっただろうか」
 無理だとわかっていても、ついついそんなことも考えてしまう。
「まぁ、いい。キラ達が起きるまでの暇つぶしだと考えればいいだけのことだ」
 そう考えれば、多少の事は我慢できる。
「とりあえず、早めに終わらせてしまおう」
 そうすれば、それだけキラ達と一緒に過ごせる時間が増えるはずだ。しかも、今ならば、他の者達に邪魔される可能性は低い。
「疲れて帰ってきた人間には、そのくらいのことは許されてしかるべきだよね」
 他のメンバーに文句は言われる理由はないだろう。
 言ってきても、こちらも反論をするだけだ。
「カナードとカガリには後で埋め合わせをすればいいだけのことだし」
 それも、後でキラとゆっくりと話し合えばいいだけのことだ。
「まずは一休みかな?」
 自分も、とラウは呟く。そのまま、部屋へと向かって歩き出した。

 嫁と言われて渡された書類の厚さに、すでに嫌気がさしている。だが、無視するわけにもいかない。
「全く……もう少し要領よくまとめろよな」
 だからといって、何かを言わずにはいられずに、ムウは文句を口にする。
「何を言っている? 十二分にきちんとまとめられているぞ」
 あきれたような声音でミナがそう言い返してきた。
「それに、そこに書かれてあるのはこれから必要となる内容だけだ」
 全部覚えろ、と彼女はさらに要求してくる。
「全部かよ!」
 どう少なく見積もっても、五センチ以上はある紙の束に、思わずこう呟いてしまう。
「キラを本気で守りたければな」
 そう言われては無視をすることもできない。
 だが、文字を見れば眠くなる体質の自分としては素直に『わかった』とも言いがたい。
「……努力だけはしてみる」
 こういうのは、そもそもラウの役目だろう。そう心の中で呟きながらも言葉を口にする。
「全く……長男が当てにならなければ下が苦労するの」
 優秀になるのは当然か、とミナが呟く。
「否定する気にもならねぇよ」
 昔からさんざん言われている。今更否定する気にもならない。
「開き直るな。たまには長男らしいところを見せてみよ」
 それに、とミナは続ける。
「キラ達はもちろん、他のものにも見せられぬ内容だからな」
 それはどういうことなのか。きっと、彼らの生まれ方に関係しているのだろう。
「……ったく……仕方がないな」
 そう言われては読まざるを得ない。
「せかすなよ?」
 悔し紛れにこう言うと、ムウはまず一枚目へと視線を落とした。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝