空の彼方の虹
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「本当に、今回は厄介事に巻き込んでくれたの」
ギナはそう言ってため息をつく。
「キラのことだけであればもっと簡単にすむものを……」
さらに彼はそう続ける。
「……キラは、元気ですか?」
カナードが即座にそう問いかけてきた。
いかにも彼らしい。そう考えてギナは小さな笑みを浮かべる。だが、それはすぐにかき消された。
「元気と言えば元気だがな」
もっとも、と彼は続ける。
「今ひとつ、よく眠れておぬようだが」
遠慮せずに自分達に甘えてくれればいいものを、とギナは口にした。
「そうしてくれれば俺も安心なんですけどね」
ため息とともにカナードは言葉を返す。
「妙なところで、あの子は頑固ですから」
逆に言えば、自分にだけは甘えてくれるというのは、キラの中で自分が特別な位置にいると言うことだろう。
「つまらん」
同じことを考えたのか。ギナはそう吐き捨てる。
「まぁ、よい。いずれ修正できよう」
もう少し大人になれば、と彼は続けた。
「無理だと思いますけど?」
カガリが口を挟んでくる。
「キラは、昔の方が素直でした」
甘え上手だったし、と彼女は続けた。
「だから、あいつが誤解したんでしょうね」
他の人間にもキラは同じような態度だった。それなのに、どうすれば自分だけが特別だと思うのだろうか。カガリのその主張にカナードも同意をするようにうなずいて見せた。
「馬鹿だからだろう」
そして、カナードはすぐにこういう。
「あるいは、自分にとって都合のいいことしか見えていないか、だ」
どちらにしろ、厄介でしかない。そう彼は続ける。
「とりあえず、しばらくはあいつに煩わされない。それだけが救いか」
その間に、キラのフォローをすればいい。カナードはそうも言う。
「いったい、何をしたのだ?」
お前たちの仕業だろう? と言外に問いかける。
「別に……」
アスランが勝手に自爆しただけだ。カナードはそう言う。
「先にあいつが手を出してきたので、対処しただけです」
カガリはカガリでこう言い返してきた。
「なるほど……犯人はお前か」
カナードが手を出すよりはマスか、とすぐに判断をする。
「まぁ、よい。しばらくはここでおとなしくしておれ。それができたのならば、近いうちにあの子を連れて来てやろう」
できなければ、自分がキラを独占するだけだ。ギナはそう言って笑う。
「ずるいです、それは」
カガリがむっとしたような表情で言葉を口にした。
「今回のことのペナルティだと思うがよい」
苦笑とともにそう言い返す。
「仕方がないですね」
カナードは素直に引き下がる。
「でも、声ぐらいは聞きたいのですが?」
少しでも早く、と彼は自分の希望を告げた。
「そうよの。さすれば、キラも安心できるか」
個人的には、それも後にしたい。しかし、キラの精神状態を考えれば少しでも早いようがいいような気もする。
「今日明日には無理だが、それに関して何とかしてみよう」
キラのために、とギナは言った。