空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  76  



 ラウが運転をする車が、静かに動きを止める。
「ここが?」
 カガリが彼に問いかけた。
「あぁ。オーブの大使館だよ」
 即座に彼はうなずいてみせる。それを確認して、カナードは改めて建物を確認した。
 それは、決して大きいとは言えない。だが、かなりセキュリティが厳しい建物に見える。
「おや。ギナ様だね」
 しかし、実際はどうなのだろうか。そう考えていたカナードの耳に、ラウのこんな言葉が届く。
「……マジ?」
 慌てたようにカガリが後部座席から身を乗り出した。
「本当にギナ様だ」  うわぁ、と彼女は呟く。
「出迎えてくださると思えばいい」
 不本意だが、とカナードは言い返す。
「そうなんだろうけど……でも、やっぱり、ちょっと会いたくなかったかな、今は」
 複雑な表情で彼女はそう言った。
「それは、俺も同じだ」
 きっとあれこれと小言を言われるに決まっている。そう考えれば気が重い。
「あきらめなさい。一番悪い人間は遠慮なく殴られたそうだよ、ミナ様に」
 それでも、股間を蹴り上げられなかっただけマシなのだろうか。ラウはそう付け加える。
「その話の情報源が誰なのか、ときになりますが……それ以上に、男としては聞きたくない話ですね」
 皆が本気になればムウは二度と立ち直れなくなるのではないか。自分が同じ立場になると考えるだけで怖い。
「まぁ……それだけは同意をするよ」
 男として、とラウは苦笑を浮かべる。そのまま、彼はブレーキを踏んだ。
 まるではかったようにギナの前で停車をする。
「さて……私としては君たちを彼に引き渡せば今回の任務は終わりだね」
 にやり、と笑いながら彼はシートベルトを外す。
「……お茶ぐらいつきあっていってください」
 ここで、とカナードは即座に言う。
「おや、どうしてかね?」
 おもしろそうな声音でラウが聞き返してくる。
「……情報の共有は必要だと思いますが?」
 ギナとラウはあちらでできるかもしれない。だが、自分達はそれが難しい。なら、できるときにやっておくべきだろう。
「なるほど」
 だが、とラウは言い返してくる。
「ここで下手な動きを見せれば、周囲から疑念を抱かれるよ?」
 それではまずいのではないか。そう言い返してくる。
「……それは……」
 確かにそうかもしれない。だが、とカナードは言い返そうとした。
「何。機会はいくらでもある。今日のところはあきらめてギナ様に怒られるんだね」
 そう言いながら、彼は運転席から下りる。そのまま二人が乗り込んでいる後部座席の方へ回ってくるとドアを開けた。
「早く下りたまえ」
 ギナが待っているよ、と彼は言外に付け加える。
「……ラウさんがここまで意地悪だとは思わなかった……」
 カガリが小さな声でそう呟く。
「何を言っているのかな?」
 その瞬間、ラウの笑みが深まった。
「今回だけは俺たちのミスだ。あきらめるしかないな」
 さて、ギナに怒られに行くか。そう付け加えたのは、この上、ラウの怒りまで買いたくないからだ。
「……カナードさんがそういうなら」
 何かを察したのだろう。カガリもそう言ってうなずいてみせる。
「最初からそうすればいいのだよ」
 手のひらを返した二人にラウはため息とともにそう言った。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝