空の彼方の虹

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「……本当に、何をしているんですか、アスラン」
 あきれたようにニコルがそう言ってくる。いや、あきれているのは彼だけではない。他のメンバーも似たようなものだ。
「女性に負けるとはな。ずいぶんと符抜けたものだ」
 イザークに至っては、辛辣なセリフをためらいなく投げつけてくれる。
「あいつのどこが《女性》なんだ」
 確かに、遺伝子上はそうかもしれない。だが、あの性格はどちらかと言えば男性そのものだろう。
「女性ですよ。間違いなく」
 ニコルがそう言ってため息をつく。
「守るものがある女性は、時としてものすごく強くなることがある、と聞いたことがあります。カガリさんもそのタイプなのではありませんか?」
 キラのことであれこれ言ったのではないか。そう彼は続ける。その推測力だけはいつも見事だ。
「昔から、あいつはああだ」
 ため息とともにアスランは口を開く。
「人の話を聞かずに、手を出してくる」
 だから、悪いのは自分ではない。アスランは言外にそう続けた。
「本当に?」
 ディアッカがそう問いかけてくる。
「今回は、な。俺は黙って二人の話を聞いていただけだ」
 人の悪口で盛り上がってた、とは言わない。
「それで、キラ君の話になったわけですね。アスランがあの子を怖がらせていたことはみんな知っていますし」
「なのに、追いかけ回していたもんな、お前」
 そのせいで、キラが熱を出していたような覚えがある。ディアッカがそう言う。
「彼にしてみれば、お前は恐怖の対象だろうからな。カガリ嬢でよかったかもしれないぞ」
 カナードであれば、その程度で済まなかったのではないか。ミゲルのこの指摘は正しいと思う。
 どうあがいても、自分ではカナードには勝てない。まだ、と言いたいが、それはどうだろうか。カナードの実力はラウのそれと等しいのではないか。自分がそのレベルに達するまで、どれだけの経験を積めばいいのか、想像もつかない。
 その彼が本気になれば、肋骨一本ですんだだろうか。
「しかし、何と書けばいいんだろうな、報告書」
 不意にミゲルがため息とともに言葉を吐き出す。
「ミゲル?」
 どうしたんだ、とみんなが彼の顔を見つめる。
「アスランのけがの報告書だよ。本当のことなんてかけるはずがないだろう?」
 ナチュラルの女の子に骨を折られました、と書いていいのか? と彼は言外に問いかけてくる。
「確かに。そんなのが公文書に残されたら、ザフトの恥だな」
 イザークもそう言ってうなずく。
「だからといって、けががなかったことにできませんしね」
 ニコルが困ったようにそう告げる。
「だよな。実際に、けがをしているんだし」
 なかったことにするには、今すぐ治さないとな。そう言ってディアッカが意味ありげに見つめてくる。
「お前が自爆したことにするしかないんじゃねぇ?」
 その表情のまま、彼は言葉を口にした。
「それが一番無難だろうな」
 イザークが大きく首を縦に振っている。
「そうすれば、恥をかくのはアスランだけだ」
 その分にはかまわない。そう彼は続けた。
「……何が言いたいんだ、お前は」
 気に入らない。心の中でそう呟きながら、問いかける。
「ザフトの軍人がナチュラルの、しかも民間人に負けたなど、認められないと言うだけだ」
 しかも、相手は自分達が保護をした相手だ。そう続ける。
「何よりも、相手は女性ですからね。別の勘ぐりをされるとまずいのではありませんか?」
 事実とは違っていても、下種の勘繰りと言うものをするものはいる。アスランの足を引っ張りたいものもだ。ニコルはそう言いたいのだろう。
「と言うことで、いいな?」
 ミゲルが確認の言葉を投げかけてくる。
「不本意だが、仕方がないだろう」
 確かに、下手に勘ぐられては困るか。そう考えると、アスランは苦虫を噛み潰したような表情でこう言った。


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最遊釈厄伝