空の彼方の虹

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 カナードはラウの執務室にいた。
「当面、君たちは大使館で軟禁状態におかれることになっている。しばらくは我慢してくれ」
 勝手に抜け出そうとするな、と言外に釘を刺される。
「やっぱり、まずいですか?」
 気づかれない自信はあるが、とカナードは問いかけた。
「万が一のことを考えるとね。そのとき、責任をとらなければいけないのは君ではなく、ギナ様だよ?」
 そして、彼の保護下にいるキラにも追及の手は及ぶかもしれない。そう言われては、カナードも引き下がらないわけにはいかなかった。
「困ったことに、あの子の存在に疑念を抱いてくださる方がいてね」
 この前も、招かざる客が押しかけてきたらしい。その言葉にカナードの表情がこわばる。
「どこの馬鹿ですか?」
 即座にこう問いかける。
「まだわからない、と言うのが正直なところだね」
 実行犯の口が堅い。誰の指示か、未だに口を割らないのだ。
「……実行犯は軍人ですか?」
「それも、はっきりとはしないのだよ。軍籍があったのは事実だがね。過去の話だ」
 現在は軍人ではないらしい。
「傭兵だとするなら、何をしても口を割らないだろうね」
 彼らにしてみれば、失敗して捕縛されたのは自分のミスだ。だから、依頼主に対して口を開くことはない。それは当然のことだと言える。
 しかし、こんなときは忌々しいとしか思えない。
「……それでも、俺があいつのそばにいてはだめなのですか?」
 自分がそばにいれば安心できるのに、とカナードは言外に続けた。
「ギナ様に任せろ。今はそれしか言えない」
 ラウはそう言う。
「本国に着けば、私もあちらに帰るしな。それでは妥協してもらうしかないだろう」
 さらに彼は言葉を重ねる。
「俺としては、あいつに関わることは妥協したくないのですが」
 他のことであればともかく、とカナードは顔をしかめた。
「あいつは、まだ、爆弾を抱えているようなものですからね」
 それがいつ爆発するか。それが怖い。
 同時に、それに対処できるのは自分だけだ、と言う自負もある。
「わかっているよ。だからこそ、レイをそばに置いている」
 ラウはため息とともに言葉を吐き出す。
「あの子自信に対処はとれなくても、連絡をしてくることは可能だからね」  そのときは、すぐにキラとカナードが会えるように手配しておく。彼はそう付け加える。
「多少の時間であれば、私たちでも何とかできるだろうしね」
 それはそうかもしれない。それでも、と思うのは自分がまだ大人になりきれていないからだろうか。
「それに、そういう理由なら、アスランもシャットアウトできるからね」
 キラの居場所がつかめても、面会できない状態だと……とラウは言った。
「……あいつのことがありましたね」
 厄介な、と本気で呟く。
「いっそ、撃ち落としておけばよかったか」
 ぼそっと、そう続ける。
「話がややこしくなるからやめなさい」
 ラウがすぐに言葉を返してきた。
「ただでさえ、カガリが何をしでかしてくれるかわからないというのに」
 もっとも、と彼は笑う。
「あの子に何かをされたからと行って、アスランが文句を言えるはずがないがね」
 確かに、ザフトの軍人が同じ年の女の子に伸されたなどと、公言できるはずもない。しかも、カガリはあれでもナチュラルだ。
「骨でも折ってくれると、静かでしょうがね」
「確かに。そのくらいなら妥協範囲だね」
 おるならば、足の骨か? とラウは真顔で呟く。
 まるでそれを待っていたかのように彼の前に置かれた端末が盛大に鳴り響いた。
「おやおや。噂をすれば何とやら、かな?」
 だとしたらものすごく胸がすっとするのだが。カナードが本気でそう考えていた。


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最遊釈厄伝