空の彼方の虹

BACK | NEXT | TOP

  71  



「あれがプラントですわ」
 そして、とラクスが歌うように続けた。
「あれがアプリリウスワンです。これから、あそこに向かいます」
 最高評議会がおかれているあのプラントには、友好関係にある各国の大使館も存在している。カガリも、そこに行くことになるだろう。
「わたくしの家もアプリリウスにありますし、デュランダル様のご自宅もそうだと聞いておりますわ」
 言外に『キラもあそこにいる』と彼女は伝えてくる。
「と言うことは、ギナ様もいらっしゃると言うことか」
 だが、直接それを言うことはない。代わりにもう一人の名前をカガリは口にした。
「今回のことは、間違いなく怒られるな」
 自分のわがままからこうなったようなものだし、とかのじょはため息をつく。
「仕方がありませんわね」
 ラクスが微苦笑ともにそう告げる。
「わたくし達は多少のわがままを見逃してもらえる立場にはあります。ですが、何をおいても生き残らなければならない義務もありますわ」
 違うか? と言われてカガリは同意をするためにうなずく。
「まぁ、仕方がないな。それが国を支える人間の義務だ」
 だから、怒られることは覚悟している。
「もっとも、それを無視している人間もいるがな」
 そうだろう? と苦笑とともに付け加えた。
「……あの人は、馬鹿ですもの」
 自分の基準だけが世界のすべてなのだ。他の人間には他の人間なりの基準があると考えていない。
 自分が好きならば、相手も自分を好いていてくれる。そう考えているのではないか。
「それ以前に、あいつの場合、思い込みが強すぎるだろう」
 キラのことだって、とカガリはため息をつく。
「三年前に別れた人間がどうやって当時の姿で姿を現すんだよ」
 全く、とあきれたように口にした。
 確かに、同一人物ではある。だが、それならばそれなりの理由があると考えるのが普通ではないのか。
 もっとも、何があろうと真実を伝えるつもりはないが。そう心の中で付け加える。
「だから、アスランは『馬鹿』だと申し上げておりましてよ?」
 困ったことに、とラクスはため息をつく。
「……言われると否定できないな」
 苦笑とともにカガリがうなずいたときだ。
「本人を目の前にして、よくそんな会話ができますね」
 不意にアスランの言葉が割り込んでくる。
「本人を目の前にしているからこそ、話題にしているのですわ」
 ラクスが平然と言い返す。
「そうでなければ、どこを直さなければいけないのか。ご本人だけが知らない、と言う状況になりますでしょう?」
 違いますか? と彼女はさらに聞き返していた。
 こんな風に言葉で相手を追い詰める方法は自分も見習った方がいいのだろうか。だが、その前に手が出る自信がある、とカガリは苦笑を浮かべる。
「そもそも、あなたがキラ様を怖がらせた、と聞いておりますが?」
 それなのに追いかけ回すなんて、とラクスは盛大に息を吐き出す。
「本当にただのストーカーですわね」
 あきれますわ、と彼女は言い切る。
「自分よりも幼い方相手に、恥ずかしいとは思いませんの?」
 大人げないなどといったものではないだろう。彼女はそう続けた。
「誰がストーカーですか?」
 アスランが即座にそう言い返してくる。
「いやですわ。あなた以外、いませんでしょう?」
 それも理解できないのか。ラクスはそう言いながら首をかしげる。
「……理解できていないから、繰り返すんだろう」
 月にいた頃もそうだった。カガリはそう言ってため息をつく。
「何が言いたい」
 ラクス相手では言い負かされるとわかったからだろうか。アスランは即座にカガリにかみついてくる。
「言われなきゃ、思い出せないのか?」
 本当に馬鹿だな、とカガリはため息をついて見せた。もちろん、それがアスランをあおる行為だと言うこともわかっている。
 いっそ、何かをしでかして謹慎処分になってくれればいいのに。
 カガリは本気でそう考えていた。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝