空の彼方の虹

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 キラの腕に点滴の針を刺す。
「軽い脱水症状だよ。そのまま、少し眠っていれば、すぐによくなる」
 そして、彼の顔をのぞき込むようにして、ギルバートはこう言った。
「はい」
 それに、彼は小さくうなずいてみせる。
「私たちは隣におる。何かあれば呼ぶがいい」
 さらにギナがこう声をかけた。それだけではない。彼はキラの目の上に手をかざす。その下で彼はそっと目を閉じたのがわかった。
 緊張が解けたのだろう。キラの口からはすぐに寝息がこぼれ落ちる。
 しばらく、そんなキラの様子を確認し、彼が起きないという確証を得たところで、ギルバートはギナを隣の部屋へと移動を促す。
 そこには一足先に手当を終えたレイが待っていた。 「さて……詳しい話を聞かせてもらおうか」
 こう告げれば、礼は小さくうなずいてみせる。
「でも、俺にもよくわかりません。すぐにキラさんとセーフティルームに駆け込んだので」
 襲撃者については、何も見ていない。そう彼は続ける。
「だろうね」
 そちらに関しては使用人をはじめとする者達の話で十分だ。監視カメラもあるし、と微笑む。
「キラの様子はどうだった?」
 不意にギナが口を挟んでくる。
「あれには辛い状況だったのであろう?」
 彼の言葉に、レイは小さくうなずく。
「途中から手足が冷えて……震えが止まらなくなりました」
 抱きしめる以外にできなかった、とレイは悔しげに続ける。
「安心するがいい。私でも同じことしかしてやれぬ」
 キラが無条件で安心できるのは、カナードのそばだけだろう。ギナは静かな声音で告げる。
「あれらの絆は、私とミナのものよりも強いからな」
 ムウとラウのそれと同じか、それ以上かもしれない。そう彼は続けた。
 その瞬間、レイが瞳を揺らす。そこで自分の名前が出てこなかったのが不満なのだろうか。
「あきらめなさい、レイ。その絆は一緒に過ごす時間が長い方が強まるからね」
 そう言った意味で、レイが他の者達よりも劣っているのは当然なのだ。
「それでも、ラウは君のことがわかっている。それで十分ではないのかね?」
 他の者達にはわからないことも、ラウはすべてわかっている。それは、彼がレイと同じ部分を多く持っているからだ。
「カナードとキラも同じことよ。それにカガリもかもしれんがの」
 だからといって、カナードとカガリは同じ存在ではない。そう考えると、あの三人はおもしろい関係だろう。
「ともかく、だ。お前はこれからもあれのそばにいるように」
 まだ、あちらがあきらめたとは思えない。その上、アスランまでも戻ってくるのだ。キラがこのまま無事で日常を過ごせるとは思っていない。
 むしろ、これからの方が雑音が激しくなるのではないか。
「わかりました」
 レイは即座に言葉を口にする。
「俺にはそばにいるしかできませんが、それでいいのでしたら」  さらに彼はそう付け加えた。
「それで十分だよ。大切なのは、キラ君を一人にしないことだからね」
 レイがそばにいれば、自分達はとりあえず目の前のことに集中できる。ギルバートはそう言って微笑んだ。
「後は、ラウが来るであろうからの」
 本音を言えば、カナード達も一緒にいればなおいいのだが、とギナは呟く。
「それは難しいですね。カナードくんの行動がまずかった」
 理由は納得できる。彼の立場であれば、そうする意外になかったと言うこともだ。
 それでもすぐに受け入れるわけにはいかない。
 プラント側はそう言うしかないのだ。
「わかっておる。だからこそ、我らも黙っておるだろう?」
 ギナはそう言い返す。
「ただ、本土との連絡だけは許可してもらわねばならぬな。カガリは、あれでもアスハの後継だ」
 無事であることを知らしめなければならないだろう。彼はそう主張する。
「わかっております」
 それは何とかしよう。ギルバートはそう言いきった。


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最遊釈厄伝