空の彼方の虹
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『出てきてもよいぞ』
外からギナの声が響いてくる。
「キラさん」
それを聞いて、レイはすぐそばで膝を抱えている彼に呼びかけた。
「……何?」
そう言いながら、彼は顔を上げる。その顔色が想像以上に悪いという事実に、レイは驚いた。
だが、それをキラに指摘しない方がいいだろう。
「ギナ様です。出ても大丈夫みたいですよ?」
立てますか? と言外に問いかけた。
「ギナ様」
ほっとしたような表情でキラは呟く。
「うん、立てるよ」
言葉とともに彼は腰を浮かせようとした。しかし、そのまま前に倒れそうになる。
「危ない」
とっさにレイは彼の体を支えた。
「ごめん……」
肩を落としながらキラがそう言う。
「緊張していたから、体がこわばっているんですよ」
仕方がないことだ。言外にそう伝えながら、レイは微笑みを浮かべて見せた。
「俺に寄りかかってください」
言葉だけではなく、行動でも彼の体を自分の方に引き寄せた。
「……ごめんね」
彼はまた、謝罪の言葉を口にする。
「個人的には、謝罪よりもお礼の言葉の方が嬉しいんですけど」
苦笑とともにそう告げた。
「レイ?」
自覚がなかったのか。彼は首をかしげている。
「ともかく、出ましょう。ギナ様にここを壊されないうちに」
じれているのだろうか。彼は思いきりドアのあたりを蹴りつけている。
「そうだね」
さすがに、キラも危機感を覚えたのか。うなずいてみせる。
「じゃ、行きましょうか」
歩きますよ? と続けると、レイは足を前に出す。吉良もそれに合わせて歩き出した。
それほど広い部屋ではない。だから、すぐにドアの前についた。
キラを支えたまま、レイは壁に取り付けてある端末を操作する。次の瞬間、かすかな音を立ててドアが開いた。
「無事だな?」
完全に開く前に強引に体を滑り込ませながら、ギナが問いかけてくる。
「とりあえずは」
レイが言い返す。
「ですが、キラさんは少し休まれた方がいいかと思います」
隣にいる彼に視線を向けると、そう続けた。
「そのようだ」
言葉とともにギナはキラのすぐそばまで歩み寄る。そして、そのまま彼の体を抱き上げた。
「寝ておれ」
そのまま、優しい声音でそうささやいている。
「……ギナ様、犯人は?」
そんな彼に、キラは不安そうに問いかけた。
「死人は出ておらぬぞ」
安心しろ、と彼は笑う。
しかし、本当に安心していいのだろうか。レイはふとそんなことを考える。
「今、デュランダルが警察を呼んでおる」
後は任せておけばいい。彼はそう続けた。
「はい」
キラは小さくうなずく。そのまま、ギナの腕の中で目を閉じる。
「さて、行こうかの」
ギナはレイへと視線を向けるとこう告げた。
「はい」
レイもしっかりとうなずいてみせる。それを確認すると、彼は歩き出した。