空の彼方の虹
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今、あちらでは何が起きているのだろうか。
「そろそろ、カナード達はキラと合流できたかな」
ムウは虚空を見つめながらそう呟く。
「どうだろうな」
そんな彼の背後からミナが言葉を投げつけてくる。
「あちらもそろそろ、戦後を見つめ始めているだろうからの。そうなれば、一番真っ先に直面する目的は次世代の誕生であろう」
しかし、何故か、コーディネイターは第二世代同士では子供が生まれにくい。オーブであれば、ナチュラルを伴侶に選ぶことでそれを解消できる。だが、プラントでは不可能だと言っていい。
そんな彼らが、かつて研究されていたある技術を手に入れたいと思わないはずがない。
しかし、その技術を研究していた科学者はすでにこの世のものではないのだ。
だから、せめて、彼らの研究データーが欲しい。そう考えているのだろう。
「あの人達が生きていた頃は、全く見向きもしなかったくせにな」
それどころか、彼らの研究を認めようとはしなかった。
「あの人達がナチュラルだ、と言う理由だけでな」
ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、未来を見据えていたのは同じだ。ならば、手を取るのが普通ではないのか。
「そう言うな」
苦笑とともにミナが口を開く。
「あやつらは、コーディネイターの中でも年長の者達だ。ナチュラルから受けた仕打ちを忘れられないのだろう」
そんなものばかりではない。そうわかっていても、だ。彼女はそう続ける。
「だが、自分達だけではどうしようもない。その事実に今更ながら焦っておるのだろうて」
遅いがな、とミナは呟く。
「あの二人がデーターを残してくれた。それは事実だがな」
そして、それがあれば、あちらが抱えている問題点を打破することは可能だろう。
「素直にこちらに頭を下げてくれれば、データーも開示するのだがな」
それすらも気に入らないのだろう。
「……だからといって、あいつ、ですか?」
「データーを持っている、と判断されたのだろう」
そうでなかったとしても、あの子の身柄とデーターを引き替えようと考えているのではないか。
「全く、気に入らん」
子供は守るべき存在だろう、と彼女は吐き捨てるように呟く。
「どちらにしても、あの男には渡すつもりはないがな」
あの二人が亡くなったのは、あの男が見て見ぬふりをしたからだ。そして、キラが未だに癒えない傷を抱えているのも、である。
「ともかく、ギナがそばにいる。あれが何とかするであろう」
多少のミスは目をつぶろう。ミナがそう言った意味はなんなのか。考えれば怖いような気がする。
「何か起きているなら、カナードとカガリが合流する前にして欲しいな」
ムウはそう言ってため息をつく。
「でないと、いくらあいつでもあいつらを制御できないぞ」
二人そろって暴走したらどうなるか。はっきり言って想像したくない。
「アークエンジェルの中が地獄だったしな」
思わず遠い目をしながらこう呟いてしまう。
「ほう。お前がそういうとは……」
「……何せ、いきなり耳を押さえて倒れる奴ら多数だったんだぞ」
自分はカナードにいきなり耳栓を突っ込まれたから、その原因が何かわからなかった。だが、かなり怖い光景だったのは否定しない。
「その上、ご丁寧にゼロは壊してくれるし」
艦外に放り出して、と続ける。
「そのおかげで、お前は無事にMIAに認定されたのだから、いいではないか」
ミナはそう言って笑う。
「後は、他人の空似でごまかすんだな」
ラウとは違って顔を隠していなかったのだ。そのくらいは覚悟しろ。彼女はそう続ける。
「わかってるって。当分は、ここでおとなしくしているつもりだし」
こき使われるだろうが、とため息混じりにはき出す。
「わかっているなら、遠慮はいらぬな」
こき使わせてもらおう、とミナは笑う。
「……やぶ蛇だったか」
苦笑とともにむうはそういいかえした。